2.隠し子騒動

ホーム>バックナンバー2022>令和四年7月号(通算249号)物価味 夜の暴れん坊将軍吉宗2.隠し子騒動

物価高騰
1.風呂場の女
2.隠し子騒動
3.娘との情事

「半左衛門」
「はい?」
「余の顔を見忘れたか?」
「これはこれは上様。何でしょうか?」
「米相場はおもしろいぞ」
「堂島ですか?」
「勝ったり負けたり、ゾクゾクハラハラするぞ〜」
「バクチじゃないですか」
「バクチとは人聞き悪い。運用と申せ」
「ははーっ」
「いざとなったら余には他の相場師にはない必殺技がある。自在に米価を操縦して勝つことができる。余が米価が上がる政策を打ち出せば、絶対に米の値は上がる」
「イカサマじゃないですか〜」
「そんなことはどうでもよい」
「どうでもよくありませんて!」
「昨日、風呂場でおぬしの部下の嫁を余の嫁にした」
「え!」
「不都合か?」
「滅相もございません。軽く驚いてみましたが、驚くこともございませんでした。上様の女癖の悪さは痛いほど存じております」
「へっへっへ」
「上様はお心が広いお方ですが、女性の好みの範囲も広すぎます。ババアからお子様、絶世の美女から救いようのないブスまで何でもござれ、来る者は拒まず、来ないならこちらから、年中無休、ドンドンパンパン花火大会」
「そうだ! 隅田川で花火大会とかしてみたら、下々のオナゴたちが大勢見物に来るぞ〜」
「上様は百花繚乱
(ひゃっかりょうらん)桜爛漫(らんまん)な大奥に入り浸っているだけには飽き足らず、まだまだ下々の女子たちを物色しようとしておられる」
「そうそう! 飛鳥山
(あすかやま。東京都北区)を桜の名所にしてしまえ。そうすればますます下々のオナゴたちが仰山集まってくるぞ」
「そうです。全てはオナゴが目的なのです。おそらく上様は、後世には『暴れん坊将軍』とでも呼ばれていることでしょう」
「まさか。余よりも暴れん坊はいくらでもいるであろう」
「いえいえ、おりませんて。上様に勝てるのは、『好色一代男
(井原西鶴著)』に登場する世之介(よのすけ)なる架空人物ぐらいでしょう。本日も天一坊(てんいちぽう。改行)なるヤツが、『俺は将軍吉宗の隠し子だ』と騒いでおりましたので、ふん捕まえてただ今取り調べております」
「ほう」
「天一坊は元禄十二年(1699)紀州田辺
(たなべ。和歌山県田辺市)の生まれだそうです。その母は和歌山城に奉公していたのですが、殿様のお手つきになり、妊娠したため実家に戻されたそうです」
「ほうほう」
「この頃の紀州のお殿様といえば、上様」
「確かに」
「容疑者は上様しかございませぬ」
「容疑者とか申すな」
「上様は、何か身に覚えがありますでしょうか?」
「ある!」
「やっぱり……」
「あの頃、余は若かった……」
「それはそうでしょう」
「四六時中、女のことしか考えていなかった……」
「……」
「狩りに行くのは獣より女が目的であった……」
「……」
「あの頃の余は毎日のように馬で出かけたものだが、馬に乗っている時間より女に乗っている時間のほうが長かった」
「無双だ! 無双すぎるっ!」

 享保十四年(1729)四月二十一日、品川の鈴ヶ森(すずがもり。東京都品川区)で天一坊は処刑された。
 ニセモノと判断された結果だが、本当にニセモノだったかどうかは定かではない。

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