1.三輪伝説T 〜処女懐胎『古事記』 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2003>1.処女懐胎「古事記」.
|
● 古事記の説話 ●
昔、活玉依姫(いくたまよりひめ)という美女があった。
あるとき、彼女は結婚もしていないのに妊娠した。
父母はいぶかしがった。娘を問い詰めた。
「おまえは夫もいないのに、どうして妊娠したのか?」
活玉依姫は答えた。
「毎晩毎晩、いい男が通ってくるんです」
父は不機嫌になった。
「その男とは、どこのどいつだ?」
活玉依姫は、首を横に振った。男がどこからやって来るのか、どんな身分の男なのか、名前すら知らないという。そんな小さなことはどうでもいいほど、魅力的な男だというのだ。
父母は困惑した。とにかく、男の正体を突き止めないことには話にならない。
そこで一計を案じた。
「今度男が来たとき、その衣服にこっそりと長い糸を通した針を刺しておくように」
娘に命じたのである。
その晩も男はやって来た。活玉依姫は父母に言われたように、男の衣服に針を通した糸を刺しておいた。
男は夜明け前に帰っていった。糸がついていることには気づいていないようだった。
翌朝、父母は糸をたどっていった。糸の先には男の家があるはずである。
「つまらん男だったら、承知せんぞ」
糸は三輪のお社で止まっていた。つまらん男だなんて、とんでもなかった。男の正体は、大神神社の祭神・大物主神だったというわけだ。
* * *
※ 『土佐国風土記』逸文にも同様の説話が伝えられているが、女のほうは活玉依姫ではなく、後述する倭迹迹日百襲姫命(やまととひももそひめのみこと)の話になっている。
● 検 証 ●
この説話において不自然な点は、男の正体は「神」だったということだけである。
だが、この点も「神」を「上」、つまり、「身分の高い人」に置き換えれば解決する。
つまり、大物主神は神ではなく、当時はまだ生存中の、おそらく三輪を支配していた豪族の首長だったのであろう。「引きこもり」の神ではなく、生身の人間の男だったからこそ、人間の女に興味を持ち、毎晩通い、妊娠させることができたわけである。