1.三輪伝説T 〜処女懐胎『古事記』

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初詣
1.三輪伝説1 〜 処女懐胎「古事記」
2.三輪伝説2 〜 令嬢変死事件「日本書紀」
3.三輪伝説3 〜 お持ち帰り「古事記」

● 古事記の説話 ●

 昔、活玉依姫(いくたまよりひめ)という美女があった。
 あるとき、彼女は結婚もしていないのに妊娠した。
 父母はいぶかしがった。娘を問い詰めた。
「おまえは夫もいないのに、どうして妊娠したのか?」
 活玉依姫は答えた。
「毎晩毎晩、いい男が通ってくるんです」
 父は不機嫌になった。
「その男とは、どこのどいつだ?」
 活玉依姫は、首を横に振った。男がどこからやって来るのか、どんな身分の男なのか、名前すら知らないという。そんな小さなことはどうでもいいほど、魅力的な男だというのだ。

 父母は困惑した。とにかく、男の正体を突き止めないことには話にならない。
 そこで一計を案じた。
「今度男が来たとき、その衣服にこっそりと長い糸を通した針を刺しておくように」
 娘に命じたのである。

 その晩も男はやって来た。活玉依姫は父母に言われたように、男の衣服に針を通した糸を刺しておいた。
 男は夜明け前に帰っていった。糸がついていることには気づいていないようだった。

 翌朝、父母は糸をたどっていった。糸の先には男の家があるはずである。
「つまらん男だったら、承知せんぞ」
 糸は三輪のお社で止まっていた。つまらん男だなんて、とんでもなかった。男の正体は、大神神社の祭神・大物主神だったというわけだ。

*          *          *

『土佐国風土記』逸文にも同様の説話が伝えられているが、女のほうは活玉依姫ではなく、後述する倭迹迹日百襲姫命(やまととひももそひめのみこと)の話になっている。

 

● 検 証 ●

 この説話において不自然な点は、男の正体は「神」だったということだけである。
 だが、この点も「神」を「上」、つまり、「身分の高い人」に置き換えれば解決する。
 つまり、大物主神は神ではなく、当時はまだ生存中の、おそらく三輪を支配していた豪族の首長だったのであろう。「引きこもり」の神ではなく、生身の人間の男だったからこそ、人間の女に興味を持ち、毎晩通い、妊娠させることができたわけである。

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