4.追い詰められた夫

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宝くじ二億円当選女性殺害事件
1.京都へ行こう
2.ヒミツの会合
3.かぎつけた妻
4.追い詰められた夫
5.で、ばらしちゃった

 夜半過ぎ、船木頼春は酔っ払って帰宅した。
「はい。ダンナサマが帰ってきましたよーん」
 妻は寝床でシクシク泣いていた。
「どうした?」
 頼春が布団にもぐろうとすると、蹴
(け)られた。
「いや!よらないで!不潔っ!」
「イテテ……。なんだよー。おれはおまえ一筋なんだよー」
「ウソばっかり!あなた、あの鴨川べりのボロ屋敷で何をしていたのっ?」
「……。何で知ってるんだ?」
「知ってるわよっ!後をつけたからっ!奥の房で何をしてたのっ?」
「……。それは、言えない……」
 妻は爆涙した。
「やっぱり、言えないことをしていたのねっ!悔しーっ!!」
「おれは目覚めてしまったんだ。そうだ。これこそおれが追い求めていたものだと――。男としてこれ以上の喜びはない、究極の天命なんだと――」
「何言ってんのよー!ウザッ!キモキモッ!! ド変態っ!!! もう耐えられないっ!同じ空気なんか吸えない!! 実家に帰らせていただきますっっっ!!!」
「待てよー。まずいよー、だっておまえのオヤジは――」
 標的たる六波羅の奉行人斎藤利行である。
 頼春が捕まえたが、今夜の妻は乱暴だった。
「いやっ!帰るっ!」
「帰ってオヤジになんて言うんだ?」
「『夫の言動がアヤシイから帰ってきた』って言うっ!」
「まずいよー!それは非常にまずいよー!!」
「じゃあ言って!奥の房でしていたことを正直に洗いざらい話して反省してっ!結婚した時に言ったでしょっ!『お互いに隠し事はナシにしよう』ってっ!」
「だからこれだけはどうしても言えないんだって〜」
「なら帰るっ!帰ってやるっ!出戻ってやるぅーー!!」
 妻は頼春を振り切った。ついに外へ駆け出ようとした。
 頼春はあわてた。悲鳴のように叫んだ。 
「わかった!話す!話すからー、頼むからー、出戻らないでくれぇーー!!」

 頼春は話した。今までのことをすべて話した。
「誰にも言うなよ。おまえのオヤジにもだぞ」
 妻は安心した。
「うん、わかった。なーんだ。私はてっきり変態的浮気なんだと――」
「ヘンタイテキウワキ?」
「ううん。なんでもない。こっちの話。ウフッ!」
 誤解の解けた二人は安心して愛し合った。

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