1.地獄を呼ぶ女

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富士山などは噴火するのか?
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現在の鎌原村(群馬県嬬恋村)周辺

 浅間山のふもと、上野の鎌原村に、悪い女と良い女がいた。
 悪い女と良い女は、二股男と付き合っていた。
 村祭の夜、悪い女と良い女はバッタリ出くわした。
「こんばんは。これ、あたしの恋人」
「はあ?あたいのオトコだけどっ」
 二人は同時に二股男の浮気を知った。
「ひーん!」
 良い女は泣き出し、悪い女は二股男に食ってかかった。
「コノヤロー、浮気しやがって!あたいとこの女のどっちか選べよっ!」
「じゃあ、こっち」
 二股男は即座に良い女を選んだ。
 しばらくして、二股男と良い女は結婚してしまった。

 悪い女は怒った。
「あのアマー!あたいほど色気もねえくせに、一丁前に人のオトコ盗りやがってー!」
 悪い女はむんずと五寸クギをつかむと、ダッと自宅を飛び出した。
「ぶっ殺してやる!」
 悪い女はものすごい速さで良い女の家の前を走り過ぎると、鎮守の社に乱入、
 べりべりべりー!
 しめ縄をぶっちぎってワラ人形をこさえた。
「これ、良い女のつもり」
 悪い女は良い女に見立てたワラ人形を鳥居につるし上げると、
「よーし、行くぞー!」
 と、鬼のように激しく五寸クギを打ち付け始めた。
「死ね!死ね!死ね!」
 ブス!ブス!ブス!
 いわゆる「丑
(うし)の時参り」である。

 悪い女は信じていた。
(良い女さえ死ねば、二股男はあたいのところに帰ってくる……)
 そのため、悪い女は毎晩「丑の時参り」に出かけた。
「死ね!死ね!死ね!」
 ブス!ブス!ブス!
「死ね!死ね!死ね!」
 ブス!ブス!ブス!

 時には夜明けまで呪いに熱中していることもあった。
 朝になると、近所の子供たちが鎮守の社に遊びに来る。
 そんな子供たちに最中を見られちまったこともあった。
「死ね!死ね!死ね!」
 ブス!ブス!ブス!
 子供たちは肝をつぶした。
「ギャー!『死ね死ねブスブス女』がいるー!」
 で、蜘蛛
(くも)の子を散らしたように逃げていった。
「丑の時参り」は人に見られると効果がなくなるというが、悪い女はそんなルールは知らなかった。

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