2.破

ホーム>バックナンバー2020>令和二年12月号(通算230号)隠蔽味 藤井紋太夫手討2.破

季節外れの桜
1.序
2.破
3.急

「御隠居」
「何じゃ?」
「上様が登城せよと」
「いつじゃ?」
「明後日に」
「それならよい。明日は藩邸での会があるからの」
「御隠居自ら舞われるそうで?」
「ああ。年のせいか最近台詞
(せりふ)を忘れるようになった。わしももう六十七の老いぼれじゃ」
「そうですか?稽古
(けいこ)を拝見しましたが、舞姿はとても老人には見えませんでした。腰は曲がっていませんし、顔のシワもありませんでしたよ」
「顔のシワがないのは、面をかぶっているからじゃ」
「そうでしたね、アハハ!」
「それにしても、犬将軍がこのわしに何の用じゃ?」
「わかりませんが、拙者も一緒に登城せよと」
「それがわからぬ」
「少し問いただしたいことがあるそうですが」
「問いただしたいこと?」
「はい」
「まさか、あの件がバレたのではあるまいな?」
「バレるはずはありますまい。御命令通り極秘に事を進めております」
「ではなぜわしとお前が一緒に呼ばれるのじゃ?」
「さあ?」
「どういうことじゃ? あの件以外に考えられないではないか!」
「あ――、犬の毛皮を送りつけた件ではありませんか?」
「ああ」
「お犬様の虐殺について、御隠居に説教するつもりなのでしょう」
「それならよいが……」

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