2.名 誉

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「イスラム国」滅亡
1.串 刺
2.名 誉
3.偽 装
4.潜 入
5.心 中

 安東聖秀(あんどうせいしゅう)得宗家に仕えていたが、姪(めい)新田義貞に嫁いでいた。
 そのため姪から、助命嘆願状が届けられた。
「伯父
(おじ)様、降伏してください。親族ですので悪いようには致しません」
 初め、聖秀は三千騎を率いて稲瀬川に向かっていたが、まさかの稲村ヶ崎から攻め寄せた新田勢に敗北してしまった。
 消沈して自邸に帰ってきたところ、すでに敵によって焼き払われていた。
「仕方ない。得宗館に加勢しに行こう」
「あの、得宗館もすでに焼き払われております」
「何だと?得宗はどうした?」
「東勝寺へ逃れられたとのこと」
「そうか。抵抗むなしく落ちられたか」
「いえ、得宗館での交戦はありませんでした」
 聖秀は驚いた。
「何だと?得宗館では名のある武将は誰も討ち死にしていないというのか?」
「そう聞いております」
「ありえぬ!」
 聖秀は怒った。
得宗館は日本国の主人の館であるぞ!鎌倉殿が代々住まれた聖域を、誰一人命を懸けて守ろうとせず、無血で賊の蹄
(ひづめ)にかけさせたというのか!バカヤローどもめが!このままでは後世の人々の笑い種にされようぞ!せめてわし一人でも得宗館跡にて自害し、得宗の恥辱をすすいで見せよう!」

 聖秀は得宗館跡にたどり着いた。
 その折、ちょうど姪からの助命嘆願状が届けられたのである。
 聖秀は嘆願状を読んで激怒した。
「こんなとこにもバカヤローがいた!新田家に嫁いだ者は、新田家のことを第一に考えるべきだ!わしはこんな手紙には動かぬ!恥に生きるよりは名誉に死にたい!」
 聖秀は手紙を握りしめながら切腹して果てたという。

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