3.情報収集

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3.情報収集
4.決闘!熊本城馬場

 彼を知り己を知れば百戦危うからず、である。
 宮本武蔵は村上吉之丞について情報収集することにした。
「村上吉之丞殿ってどんな方ですか?」
 人に聞き回ったのである。
「相当お強いと聞いていますが」
「具体的には?」
「流派は二階堂
(にかいどう)流。師は松山主水(まつやまもんど)様。吉之丞様は主水様の一番弟子になります」
「二階堂流の特長は?」
「知られているのが『一文字』と『八文字』と『十文字』。『一文字』は横切りの技、『八文字』左右袈裟
(けさ)切りの技、『十文字』は縦と横をほぼ同時に切る奥義とされています。主水様は生前、『一文字』と『八文字』を吉之丞様と藩主の細川忠利(ほそかわただとし)公に伝授しましたが、『十文字』の奥義だけは誰にも伝授しなかったとか」
「ほう。吉之丞は奥義を継承していないと」
 いい情報であった。
 が、その後に悪い情報が続いた。
「弟弟子の忠利公も相当のツワモノです。もともと忠利公は将軍家剣術指南役・柳生宗矩
(やぎゅうむねのり。但馬守)様のお弟子だったんですが、主水様の教えを受けた途端、瞬時に腕を上げて宗矩様から一本を取れるまでになったそうです。しかも宗矩様はなぜ負けたのか、理由が分からなかったそうです。そんな忠利公でも歯がたたないのが吉之丞様なのです」
 武蔵は驚きを隠せなかった。
(ということは、吉之丞は柳生宗矩より強いということだ……。柳生新陰流
(しんかげりゅう)を大成した最強のあの男よりも……)
 武蔵は分からなかった。聞かずにはいられなかった。
「どういうことだ?なぜ吉之丞とやらはそれほどまでに強いのか?二階堂流には奥義の他に何か秘術があるのではないか?」
「お察しのとおりです。『心ノ一法』とかいうスゴ技があるそうですよ」
「シンノイッポー?どんな技だ?」
「相手を吹き飛ばしたり、金縛りにする奇々怪々なスゴ技です」
 武蔵の不安は増した。
「決闘中にその技を繰り出された相手はどうなる?」
「刀を振ることもできず、あっさりと切り伏せられるでしょうね」
「うう……。その術はどこかで見られないのか?」
「さあ。公開してませんので」
「術を解く方法とかはないのか?」
「さっぱり聞いたことはありませんね」
「それでは二階堂流は無敵ではないか!」
「無敵ではありません。現に松山主水様は先代藩主三斎
(さんさい。細川忠興)公の手の者によって討ち取られています。主水様ほどの達人でも、寝こみを襲われたらただの人でした」
 武蔵は舌打ちした。
(寝込みを襲うなど、決闘では使えない手だ!)

 宿に帰った武蔵の所に、吉之丞から「果たし状」が送られてきた。
「決闘は明日。辰の刻
(午前八時頃)に熊本城の馬塲にて」
 武蔵は困った。
 宮本伊織が、
「『遅刻厳禁。待ち伏せ厳禁』だって」
 と、付け足したのには苦笑した。
「ちゃんと気づいているじゃねえか」
「勝てるよね?」
「ああ」
 それでもまだ、武蔵には自信があった。
「まだヤツが気づいていない手を使ってやらあ」

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