2.酋長の変死 | ||||||||||||||
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しばらくして、クナシリのアイヌたちの間に病気が流行した。
なぜかは分からないが、酋長クラスの人々が次々に病気になったのである。
アイヌたちは不安になった。
「どういうことだ?」
「伝染病か?」
「いや、何か変だ」
マメキラフの酋長サンキチも病気になった。
「すまんが、運上屋へ行って酒を買ってきてくれ」
運上屋とは、和人とアイヌの取引所である。
「はい」
使いは泊(トマリ。国後島南西端。いちおう北海道泊村)にある運上屋に走った。
運上屋には松前藩の役人・竹田勘平(たけだかんべい)と飛騨屋国後支配人・左兵衛(さへえ)がいた。
左兵衛は、オノヤマというアイヌの人妻を奪って囲っているほか、数々のアイヌ女性を手込めにしているエロ親父である。
「何か用か?」
「主人が病気なんです。酒を分けてください」
使いはべらぼうな品々との交換を求められることを覚悟したが、竹田の目配せを受けた左兵衛は、すんなり酒を渡してくれた。
「困ったときはお互い様だからな」
使いは喜んだ。
「ありがとうございます! これで主人の病気もよくなります!」
すると左兵衛はいやな笑みを浮かべて言った。
「サンキチもこの酒が飲み納めだろうな」
使いはサンキチに酒を届けた。
サンキチはそれを飲むと、まもなく死んだ。
同じ頃、マメキリ(サンキチの弟)の妻が運上屋でもらった飯を食べたところ、コロリと死んだ。
マメキリやサンキチの子のホニシアイヌたちは怒り出した。
「これは毒殺だ! シャモの陰謀だ!」
「今までどうもおかしいと思っていた! シャモはアイヌを皆殺しにしようとしているのだ!」
「もう我慢できない! シャモを討て! 飛騨屋を打ち壊せ!」
マメキリやホニシアイヌたちは大酋長ツキノエに迫った。
ツキノエの子のセワハヤフは同調したが、父は立たなかった。
「耐えるのじゃ。シャモに勝てる見込みはない。歯向かえば傷口を広げるだけじゃ。今まで以上にひどいことをされるだけじゃ」
マメキリたちは泣いて訴えた。
「おれは妻を殺されたんだ! これ以上にひどいことがあるか!」
「わしは娘を殺された。働かないからといちゃもんつけられて棒で打ち殺された!」
「おらだってもう重労働はいやだ! もとののんびりしたアイヌの生活を返せっ!」
「耐えるのじゃ。耐えれば悪は必ず自滅する。カムイ(神)は決して悪をお許しになることはない」
「もういい」
マメキリたちはあきらめた。
「長が立たないなら、おれたちだけでもやってやる!」