2.城内偵察 | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2023>令和五年4月号(通算258号)鼓舞味 甕破り柴田2.城内偵察
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こうして何日か過ぎたが、長光寺城に籠もっている柴田勢の反応はなかった。
六角承禎は不思議がった。
「おかしいな。水に困っているはずだが」
重臣の三雲定持(みくもさだもち)が提案した。
「和睦(わぼく)を勧める使者を遣わして城中の様子を偵察させてみてはいかがですかな?」
「それはよい」
承禎は家来の平井甚介(ひらいじんすけ。平井甚助)を長光寺城に遣わした。
甚介は柴田勝家に会うなりこう言ってみた。
「ちょっと手が汚れているので、洗わせてください」
勝家は笑った。
「これはこれは気づかなくて申し訳ない」
小姓二人がかりで大きな甕を持ってこさせると、
ざっぱーん!
「きゃー!」
豪快に一気に傾けて手を洗わせた。
「どうだ? きれいになっただろう?」
「おかげさまで。手どころか、全身びしょ濡れです〜」
身震いする甚介の目の前で、
ざぱーん! じょびじょびじょび〜。
勝家は甕に残っていた水を全部捨てさせた。
甚介は驚いた。
「すごいたくさん水を使うんですね」
勝家は当然のように笑った。
「ああ。この城には水は豊富にあるからな。見てみろ! あちらでは沐浴(もくよく)をしているヤツもたくさんいるぞ」
「ホントだ」
「六角殿は城内の水が不足していると勘違いしているのであろう。そう思い込んで和睦の使者を差し向けてきたのであろう。残念だが見当違いだ。このように城内には水があり余っておる。我々が和睦に応じる理由はない。六角殿に伝えよ。この城が欲しいなら、力攻めで攻め落とされよと」
「ですよね〜」
甚介は帰って承禎に報告した。
「城内には豊富に水がありました。全く困っている様子がありませんでした」
承禎は不思議がった。
「どういうことだ? 壊した箇所の他にまだ水源があるということか?」
「そんなはずは」
三雲は信じられなかったが、義治は信じた。
「隠し井戸でもあるかも知れないな」