2.あたいが嫁ぐあなた

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ふた月続けて「山の神」の怒り
1.あたいの中のあなた
2.あたいが嫁ぐあなた
3.あたいに背くあなた
天鈿女命 PROFILE
【生没年】 ?-?
【別 名】 天宇受売命など。大宮売神?
【出 身】 高天原
【本 拠】 高天原→葦原中国
【職 業】 芸能の神・猿女君の祖神
【主 君】 天照大神・瓊瓊杵尊
【 夫】 猿田彦神
【子 孫】 稗田阿礼ら
【霊 地】 売太神社(奈良県大和郡山市)など

 あたいの名は天鈿女命(あまのうずめのみこと・あめのうずめのみこと)
 そう。天岩戸
(あまのいわと。天石戸)にこもってしまった天照大神を、エロおもしろい踊りでおびき出したダンサーだ(「倭国味」参照)
 あれであたいは高天原
(たかまがはら)の有名人になった。
 天照大神に認められ、側近に取り立てられた。

 天照大神率いる天神族には野望があった。
「地祇
(ちぎ)族が治める葦原中国(あしはらのなかつくに)を制圧し、我が孫・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと。「山岳味」「神々系図」参照)を新たな王として送り込む」
 天孫降臨とは、天神族の都合だ。
 地祇族にとっては、侵略以外何ものでもなかった。
 天照大神は迫った。
「地祇族を率いる大国主神に告ぐ。無条件で我が孫に国を譲れ。瓊瓊杵尊を新たな王として敬うのだ。地祇族には選択権を与える。降伏か死か、どちらかを選べ」

 大国主神は困惑した。
「どうすればいいのか?」
 二人の息子に意見を求めた。
「天神族は横暴だ!断固戦うべし!」
 二男の建御名方神
(たけみなかたのかみ)は「攘夷」を唱えた。
「天神族にはかなわない。恭順すべきだ」
 長男の事代主神は「開国」を唱えた。
 結果、建御名方神はフツノミタマ
(経津主命)という神剣を振りかざした将軍・武甕槌命(たけみかづちのみこと)に敗れてシナノのスワ(長野県諏訪市周辺)で殺された。
 事代主神は降伏し、大国主神はイズモ
(島根県出雲市)に流された。

 建甕槌命を先導した神がいた。
 猿田彦神だ。
 彼は地祇族だったが、いち早く天神族に恭順したため、本領イセを安堵
(あんど)された。
 が、建甕槌命は疑っていた。
「一度裏切った者は何度でも裏切る。猿田彦はいつか必ず天神族を裏切るであろう」
 彼は天照大神に進言した。
「私は猿田彦を信じておりません。将来、大国主がイズモで再挙すれば、呼応するに決まっています。このヤマトがイズモと戦うことになれば、イセ
(三重県伊勢市)の猿田彦に背後を取られることになります。挟撃されるのを防ぐために、今のうちに猿田彦を討ち、天神族がイセを確保しておくべきでしょう」
 天照大神は理解した。
 が、猿田彦を討つことには反対した。
「彼は天孫降臨の功労者です。あなたとともに地祇族を蹴散らした勇者ではありませんか。殺すには惜しい漢
(おとこ)です」
「勇者だからこそ、裏切れば強敵になります」
「では、こうしましょう。猿田彦に私が信頼する女をめあわせます。結婚して子ができれば、彼も裏切ろうと思う心はなくなるでしょう」
「なるほど。具体的に誰をめあわせるので?」
「天鈿女です」
 建甕槌命は納得した。
「それならばお国としては異論はありません。個人的には悔しいですが」

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