2.曲者のウサギ | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2023>令和五年1月号(通算255号)卯年味 いなばのしろうさぎ2.曲者のウサギ
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オキに怪しい男がいた。
怪しい男は何とかして本州に渡ろうとしていた。
すると、オキとイナバを行き来しているワニという船乗りを見つけた。
そこで怪しい男は、ワニに頼んだ。
「ぼくをイナバに送ってくれないか?」
ワニは渋った。
「タダで渡すわけはいかないね」
「タダとは言わないよ。イナバにぼくのオタカラがあるんだ。渡してくれたらオタカラを分けてあげるよ」
「オタカラって、何だい?」
「あなたの喜ぶものだよ」
「ふうん。そんなら渡してやるよ。ところで、あんたの名前はなんて言うんだい?」
「『ウサギ』だよ」
「ふうん。かわいい名前だな」
「よく言われるんです〜」
ワニはウサギをイナバにおくってくれた。
「ありがとさん」
ウサギが礼を言って船を下りた。
そして、とっとと去ろうとしたウサギに声をかけた。
「何か、忘れてないか?」
「何を?」
「とぼるなよ。あんたはさっき、渡し賃としてイナバにあるオタカラを分けてくれるって言ったよな?」
「覚えてたのかい?」
「覚えてるさ!」
「そんなのはウソだよ」
「何だって?」
「ぼくはオタカラなんて持ってないよ」
「!」
「残念でした。初めからダダで渡してもらうつもりだったんです〜」
「!!」
ワニはムカついた。
「コノヤロー!」
逃げようとしたウサギをふん捕まえてののしった。
「どーせあんたの名前がウサギってのもウソなんだろ! ウサギじゃなくて、やってることはサギじゃねーか!
」
「何とでもいえよ。払えるもんは何も持ってないんだから仕方ないじゃないか」
「何も持っていないんなら、あんたの家に押しかけてやるよ! どこなんだ?」
「ツツウラウラ」
「ふざけんじゃねー!」
「ホントだよ〜。ぼくは放浪者なんだよ〜。定まった家なんてね〜よ〜」
「ははーん。さてはあんた、ウサギじゃなくてネズミだな?」
「はい?」
「天神族の密偵だな?」
「……」
「図星だろ?」
「違いますって!」
「じゃあ、服を全部脱げ!」
「え?」
「お前が今持っている物や身に付けている物を全部没収する。それで渡し賃は勘弁してやろう」
「それは、ちょっと、まずいですって」
「何だ? 怪しいな! 何か見られたらまずいものでも持っているのか?」
「あるでしょ、そりゃ、誰だって!」
「つべこべ言うんじゃねえー! 全部脱いで渡せやー!! 」
結局、ウサギはボコられて身ぐるみはがされて、砂浜に放り出された。