4.天の岩戸 | ||||||||||||||
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天の岩屋にこもった天照大神は、そのまま出てこなくなってしまった。
神々は不思議がった。
「天照さまはどうなされたのだ?」
月読尊がウソの理由を話した。
「スサノオのせいだ。姉さんはあいつにいじめられていじけておられるのだ。スサノオを捕らえて閉じ込めろ!」
しかし、神々は躊躇(ちゅうちょ)した。
「でも〜。スサノオは天照さまのお気に入りだから〜」
「もはやお気に入りではない!あまりの乱暴ぶりに愛想をつかされたのだ!スサノオを捕らえよ!みなの者、忘れたのか?ヤツはもともとここから追放される身だったのだ!」
神々は動いた。
素戔嗚尊を捕らえて戻ってきた。
素戔嗚尊とは何がなんだかわからなかった。
「どうしてオレが捕まらなきゃなんないんだ?」
月読尊は一喝した。
「身に覚えがあるであろう!」
「はあ?」
有無を言わさず素戔嗚尊はヒゲと手足のツメを切られて幽閉された。
「ひでえ!どーゆーことだ!?」
オリの中の素戔嗚尊を見て、月読尊は隠れてこっそりガッツポーズした。
汚い手を使ったが、クーデターは成功したのである。
(フッフッフ。これで私はこの国の陰の実力者に戻ることができた。ウンは我にあり!)
だが、そうなるためにはもう一つ、太陽にお出ましいただくしかなかった。
月読尊ほか神々は天安河で会議を行った。
「どうすれば姉さんは出てくる?」
高皇産霊尊(たかみむすびのみこと)の子・思兼神(おもいかねのかみ。八意思金命)が提案した。
「みんなで楽しそうに遊ぶことです。外が騒がしければ、天照さまもきっとおのぞきになるでしょう」
「なるほど」
月読尊は思兼神の作戦通りに神々を集め、色々な楽器を作って打ち鳴らし、天の岩戸の前に伏せた桶(おけ)の上で天鈿女命(あまのうずめのみこと)なる美女神に足を踏み鳴らして踊らせた。
これがかなりエロい踊りで、胸をはだけ、すそをたくし上げて激しく踊ったという。
男神どもは大喜びであった。
「ひゃっほー!」
「いいぞいいぞ!」
「もっとやれやれー!」
外の騒ぎを聞いて、天の岩屋にこもっていた天照大神も気になって仕方がなかった。
「ア、見えた!」
「絶景かな絶景かな」
「オレも見てー。もうちょいこっち向いてけろ〜」
しかも何やら明らかにイケナイことをやっているような気配なのである。
(何をやっているのかしら?)
天照大神は岩戸を少し開けてみた。
でも、男神どもが喜んでいるのが見えるだけで、何が起こっているのかは分からなかった。
「ええぞええぞ!」
「なんと神々しい!ありがたやありがたや〜」
「こらこら!手は出さない!おさわりは禁止っ!」
(何なのよぉ〜〜〜?)
天照大神、たまらずもう少し開けてみた。
でも、少し開けただけのはずなのに、なぜか岩戸は全開してしまった。
ガラガラガララララ〜。ジャジャーン!
「あ……」
結果、天照大神の姿は、衆前にさらけ出された。
実は外から力持ちの神・天手力男命(あまのたぢからのおのみこと)が岩戸を開け、天照大神を導いたのであった。
「さ、さ、天照さま。どうぞこちらへ」
天照大神は仕方なく出てきて、天鈿女命に問うた。
「おまえたちは私がいないのに、どうして楽しそうにしているの?」
天鈿女命は答えた。
「天照さまに勝って尊い神様がおられるので、みなみな楽しく遊んでおります」
「私よりも尊い神?」
「あの方です」
天鈿女命の手の先に、月読尊がすっと立っていた。
天児屋命(あまのこやねのみこと)と太玉命(ふとだまのみこと)が両方から鏡で光を反射させていたためか、いつもよりいい男に見えた。
月読尊は真剣な顔で語りかけた。
「姉さん。――いや、天照。私とやり直そう。また以前のように、二人で仲良くこの国を治めていこう!」
天照大神はこっくりとうなずいた。
そのまま、彼の胸へと飛び込んでいった。
一方、素戔嗚尊は追放された。
「月読尊め。長年ともに暮らしてきたのに何も分かってねーな。オレはやられたら必ずやり返す性分なんだぜえ」
ひとまず彼は根の国へと旅立っていった。
[2009年11月末日執筆]
参考文献はコチラ
※ 記紀では素戔嗚尊が数々の乱暴を働いたことになっていますが、どうにもひどすぎますので、この物語では彼を追い出すための月読尊の謀略だったと解釈しました。