2.拝借!宿の亭主!! | ||||||||||||||
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下男は山伏を邸内に入れてあげた。
亭主もニコニコと下心たっぷりの笑顔で迎えた。
「これはこれはどこぞの山伏さま。いらっしゃいませ〜」
「一晩泊めてほしいのだが。――あ、当然宿代は払う」
「結構でございますよ〜。うちはこのとおり宿を生業としておりますから〜。では、室(へや)に案内いたします。――あ、お刀をこちらへ。室までお持ちいたします」
山伏は刀を渡した。
ずしゃ。
亭主は喜んだ。
「それにしてもいい刀ですねー?どこでお手に入れに?」
「大切な先祖伝来の刀でござる。拙者は武士だったが、去る関ヶ原の戦で主家が滅び、やむなく山伏になった。今ではもう、武士だった名残はそれ一振だけになってしまった」
「やはりそうでしたかー。どーりでいい刀だと思いましたよー。私は商人の分際ゆえ、いい刀は持っておりません。ところが明日、お殿さまのお供で刀を差して鷹狩(たかがり)に出かけなければならないんです。そこでお願いですが、明日からしばらくの間、この刀をお貸しくださいませんか?――あ、もちろんお返しいたします。数日で戻って参りますので」
「しかし拙者は数日分の宿代も持っていない」
「そんなのタダで結構ですよ〜。この刀の借り賃と相殺ってことで」
「先に言ったように大切な刀でござる。貸すわけにはいかない」
「そこを何とかお願いいたします。私もみすぼらしい刀を持参してお殿さまの前で恥をかきたくはありません。絶対に返しますから、どうか貸してくださいよー」
山伏は室に入ると、しばらく座って考えた。
そして、念を押した。
「絶対に返してくれるのでござるな?」
「ええ、借りたものは返す、人として当然のことです」
山伏は決心した。
「わかった。数日間だけだぞ」
山伏は刀を渡した。
亭主は喜んた。
「はいはい。約束は必ずお守りいたします!」
亭主は自分の室に戻ると、さっそく借りた刀を抜いて、灯明(とうみょう)に照らしてみた。
ぎらりーん!
亭主はニヤリとした。
「思ったとおり、見事な刀じゃ」
面に出た悪意を冷たい明かりが照らしていた。
「ええのう〜。返したくないのう〜。ヒッヒッヒ!ケッ!返してなるものかっ」