歴史チップス>バックナンバー2023>令和五年8月号(通算262号)生首味 将門の首1.生首誕生
天慶三年(940)二月十四日、平将門は下総幸島(さしま。辛島・猿島。茨城県坂東市)で平貞盛と藤原秀郷によって討たれた。
四月二十五日、貞盛と秀郷は上洛し、摂政・藤原忠平に将門の首を進上することになった。
貞盛は苦笑した。
「摂政閣下も、まさか昔、御自分に仕えていた武者の首を見ることになろうとは思ってもいなかっただろうて」
「あはは」
貞盛は家来に聞いた。
「首は持ってきただろうな?」
「はい。この桶(おけ)の中に」
「中身は入っているだろうな?」
「入ってるでしょう。すごい臭いんで」
「念のため、開けて確認してみよ」
「はい」
ぱか。
ぷーんぷんぷん!
「うえっ! 強烈ですな」
「こっちまでにおってくるわい」
「あらまー!」
「どうした?」
「腐りすぎて、誰の首なのかわからなくなっちゃってます!」
貞盛も見てみたが、ひどい造形物になっていた。
「何だこれは?」
「将門の首です」
「誰のものかどうかどころか、人の首かどうかも分からなくなっているではないか!」
「申し訳ございません。最近、暑い日が続いていまして」
「こんなものを閣下に見せびらかすのか?『こいつを覚えておいでですか?』って、聞くのか?」
「はあ」
「こんな得体のしれないもの、覚えているはずないではないか!」
「ごもっともで」
「どうしてくれる?」
「え?」
「そういえばおぬし、将門の顔に似ているな」
「そんなことないですよ」
「いや、似ている。そっくりだ。瓜二つだ」
「そんなこと、言われたことないですって」
かちゃ、ちゃららら。
「おぬし、生首になれ」
「ほよ?」
ブス! こめかみプシャー!
「痛い〜! いやだー! 死にたくねぇー! ぎゃーーー!!」
ごりごり、すっぽーん!