2.生首新鮮 | ||||||||||||||
歴史チップス>バックナンバー2023>令和五年8月号(通算262号)生首味 将門の首2.生首新鮮
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摂政・藤原忠平は待っていた。
かつての従者・平将門の首を待っていた。
「小次郎(将門)を尊意猊下(そんいげいか)と東国へ見送った時、こんな結末になるとは夢にも思っていなかった(「悪党味」参照)」
その尊意は、将門が討たれたわずか十日後の二月二十四日に病没していた(「猛威味」参照)。
尊意は将門調伏の祈祷(きとう)をさせられていたが、本気は出していなかった。
しかし、同門の浄蔵(じょうぞう。「入試味」参照)は大威徳法(だいいとくほう)を敢行、真言宗の寛朝(かんちょう)は神護寺(じんごじ。京都市右京区)の不動明王像を下総の新勝寺(しんしょうじ。成田山。千葉県成田市)に持ち込んで不動法で調伏したためか、将門は流れ矢をこめかみに受けて横死してしまった。
(小次郎は戦では最強だったのに、運がなかったのだ……)
そこへ武者が登場した。
「下野押領使・藤原秀郷、逆賊・将門の首を持参いたしました」
「御苦労。平貞盛はどうした?」
「少々、気分がすぐれぬと、首を拙者に託しました」
「検分しよう」
「どうぞ」
「気が進まないので少しだけ」
「そうおっしゃらずに御存分に」
ぱか。
ピッチピチ〜。
「あれ?」
「どうしました? 何か御不審な点でも?」
「この首、斬ってから二か月以上もたっているのだな?」
「ええ、そうなりますね」
「存外新鮮ではないか。まるでついさっき斬ったばかりみたいだ」
「ははは。将門は鬼の化身のような人でした。魔物でも宿っているから腐らないのでしょう」
「気味悪いな。今後二度とこのような反乱を起こさせないために、この首には公衆の面前で恥をかいてもらうことにした」
「と、おっしゃいますと?」
「この首を七条河原(しちじょうがわら。京都市下京区)でさらし者にする。悲劇を繰り返さないための見せしめだ。直ちに準備に取り掛かかるよう」
「ははっ」
秀郷は退場した。
忠平は見破っていた。
(よかった。あれは小次郎ではない。――ということは、小次郎はまだ生きているかもしれないな)
ニセ将門の首は、その日のうちに七条河原にさらされた。
これが日本史上初の「さらし首(梟首)」とされている。
野次馬たちが集まってきた。
「将門の首がさらされているぞ!」
「どれ。どんな悪党面しているか、見に行こか」
「うっわー。ほんま悪い顔やなー」
「気味悪いわ〜、おめめパッチリでにらんでるよー」
「それにしても、全然腐ってないよね?」
「おかしいね。もうだいぶ月日がたっているのに、うちの肌よりピッチピチ」
「不老不死のバケモンか!」
「不死じゃないの! 死んでるのこれ!」
「あ、目が動いてこっち見た!」
「やっぱ生きてんじゃん!」
「やめてよー! こわいよー!」