4.めでたしです上杉謙信

ホーム>バックナンバー2007>4.めでたしです上杉謙信     

安倍内閣→福田内閣
1.ぐちゃぐちゃ春日山城
2.がっかりだわ上杉謙信
3.やっちまった上杉謙信
4.めでたしです上杉謙信

 長尾政景ら諸将は長尾景虎を捜した。
 国主がいなくなったとは口が裂けても言えないので、似顔絵を持って道行く人に尋ねた。
「こんな人、見ませんでした?」
「さあ〜。だれこれ?偉い人?」
「偉くはないですよ。へっへっへ!」
「うーん、なんか殿様っぽい」
「違うっちゅーに!」

 特に高野山へ向かう街道沿いを重点的に探した。
 そしてついに政景は景虎を発見したのである。
「殿ぉー!いえ、そこのお人ぉー!待ってくだせぇー!」
 修験者の格好をしていたが、間違いなく景虎本人であった。
「はあはあ。やっと見つけましたぞっ。さっ、さっ、みんな待っております。早く越後へ帰りましょう」
 景虎は無視して歩き続けた。
「誰が帰るといった。我は高野山で僧になると決めたのだ。どのみち我には妻も跡継ぎもない。国主はそちが継げばいいではないか」
「私では無理だからお願いしているのでございまする〜。みんな困っております〜。どうか越後へお帰りください。そもそも大国の国主がこんなことをするなんて、意味が分かりません〜」
「意味が分からない?」
 景虎は一瞬立ち止まったが、すぐに再び歩き出した。
「でもそんなの関係ねえ」
「おっぱっぴ〜」

 政景は越後から天室光育を呼び寄せた。
 主だった諸将も全員召集した。
 で、みんなで景虎に帰国を懇願したのである。
「どうか越後へ!」
「殿以外に武田・北条に勝てる御方はおりませぬ!」
「殿は村上義清
(むらかみよしきよ)や小笠原長時(おがさわらながとき)らのために武田を、関東管領(上杉憲政)のために北条を討つのではなかったのですかっ?正義の戦いをなさるのではなかったのですかっ?」
「殿ぉ〜」
「もう喧嘩なんかしませんから〜」
「みんな仲良くいたしますから〜」
 そのとき、景虎の目がキラリと光った。
「その言葉に偽りはないか?」
「え、どの言葉で?」
「喧嘩しないという言葉だ」
 諸将は顔を見合わせると、いっせいにうなずいた。
「ええ。しません!しません!」
「もう絶対にしませんて〜」
「『絶対に喧嘩をしない』と毘沙門天に誓って誓紙を書くか?」
「書きます、書きます〜」
 諸将らは争って誓紙を書いた。
 そしてそれらをまとめて景虎に進上した。
 景虎は目を通して笑った。
「うーん。お前たちがこれほどまでに申すのであれば、もう少し俗世にまみれてみるか」
「ぜひぜひ!」
「ただし、これからは一致団結して義のために生きるのだぞ」
「はい!殿!」
「みんな殿についていきますっ!」
「カネや権力なんてクソ食らえだー!」
「正義って、すばらしいっ!」

 この事件以降、越後の家臣団は見違えるほど結束したという(大熊朝秀は武田に寝返えることになるが……)
 めでたしめでたし。

 ただし、こんなことで家臣たちが結束し続けていたとは考えにくい。
 おそらく、これ以降も景虎は、家臣たちに揉
(も)め事が起こるたびに何度も何度も次の言葉を発したと思われる。
「そうだ!高野山へ行こう」
「ひぇー! まただぁ〜!」
「それだけは御勘弁をぉ〜!」

[2007年9月末日執筆]
参考文献はコチラ

※ 謙信が向かったのは高野山ではなく、比叡山だったという説もあります。
※ この事件を家臣団結束を図った謙信の策謀だとする説がありますが、私は出家願望は本心だったと思います。謙信が何より策謀というものを憎んでいたことは周知でしょう。

歴史チップス ホームページ

inserted by FC2 system