歴史チップス>バックナンバー2024>令和六年４月号(通算270号)窃盗味　鼠小僧次郎吉１．これから物語

「あなた」
「何だい？」
「できちゃった」
「何が？」
「赤ちゃん」
「ふーん。一姫二太郎でよかったのにな」
「あなたのせいでしょ？」
「おまえのせいでもある」
「どうする？」
「産めよ。二人も三人も一緒だろ」
「家族四人でも生活が苦しいのに〜」
「何とかなるさ」
「あなたは仕事しないし〜」
「してるじゃないか！ 中村座の木戸番だぞっ」
「木戸番って、どんな仕事をするの？」
「何でも屋だよ」
「何にも屋じゃないの？」
「仕事はしてるよ！ 少しはっ」
「そんなんで五人家族は養えないでしょ〜？」
「大丈夫だ。わしには策がある」
「どんな？」
「長女を武家屋敷に女中奉公させる。口減らしになるし、金づるにもなる」
「なるほどねー」
「長男は職人の小僧にする。口減らしになるし、金づるにもなる。三人目の子も男なら職人、女なら女中にすればいい。こうすれば、わしらは子供を働かせて左うちわ」
「他力本願かよっ！」