3.出来ごころ | ||||||||||||||
歴史チップス>バックナンバー2024>令和六年4月号(通算270号)窃盗味 鼠小僧次郎吉3.出来ごころ
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次郎吉は困った。
「ちわー」
自宅にまで借金取りが押し掛けるようになった。
「絶対返すから、もう少し待ってくれ」
「さすがにもう待てないね。返せないんなら、嫁か妹をもらっていくよ」
「返すって言ってるだろっ!」
追い返したものの、追い詰められていることには変わりなかった。
妻が心配した。
「今の誰?」
「誰でもない」
「誰でもないわけないでしょ」
「幻だよ」
次郎吉は考えた。
(何とかして大金を得る方法はないものか?)
商家の屋根でとびをしながらも考えた。
思いつかなかったが、ヒントは見つけられた。
手代が売り上げをちょろまかして懐に入れたのを見てしまったからである。
(そうだ!カネがなけりゃ、他人のを取ればいいんだ!)
しかし、ちょろまかした手代は、番頭に見つかって怒られていた。
「コノヤロー! こっそり盗んだって帳簿を見りゃすぐわかるんだよ! てめーなんかクビだっ!!」
「ひーん! ごめんなさい〜」
次郎吉は思い聞かせた。
(人のふり見てわが身を直せ。盗むなら見つからないように慎重にしなきゃな)
次郎吉は大名屋敷の屋根を跳び回っていた時も、女中が箪笥(たんす)の金銭をネコババしているのを見つけてしまった。
(ふーん。どこにでも悪いヤツはいるもんだな)
しかし、その女中が奥方に見つかってしかられることはなかった。
「何してるの?」
「何もしてませんけど」
「何もしてないのはダメでしょ。仕事しなさい」
「はーい、がんばりまーす」
次郎吉は気付いた。
(そうだ! 商家ではしっかり金銭管理をしているけど、武家ではいい加減なんだ。だろうな。武家は商売していないから、毎日銭勘定なんてしないからな。盗むんなら、武家のほうがいい。それも大金がある大名屋敷が望ましい)
次郎吉は決心した。
(よし、決めた! 俺は武家屋敷専門のコソ泥になる!!)