1.吾輩は猫である

ホーム>バックナンバー2023>令和五年7月号(通算261号)裏切味 守山崩れ1.吾輩は猫である

ワグネル反乱
1 吾輩は猫である
2.坊っちゃん
3.こころ
4.明 暗
5.それから

 今は、猫は放し飼いで、犬はヒモでつながれている。
 昔は逆で、犬は放し飼いで、猫はヒモでつながれていた。
 不自由な猫を見て、松平清康はため息をついた。
「私は猫みたいだ。私には自由がない」
 松平長親が否定した。
「そんなことないわい。若は松平家の当主じゃ。三河を統一した国主じゃ。この国のことは何でも自由にできる身分ではないか」
 長親は清康の祖父である。
 清康は否定し返した。
「私は十三歳のお子様で松平家の当主になった。十二年たった今でもまだ二十五歳の若造だ。こんな私を国主なんて誰も思っていない。私にヒモをつけて操縦しているのは桜井の叔父さんだ」
「……」
 桜井の叔父さんとは、三河桜井城
(さくらいじょう。愛知県安城市)主・松平信定(信貞)
 長親の三男で、清康の父・松平信忠
(のぶただ)の弟である。
「桜井の叔父さんだけじゃない。おじいさんも操縦している。ついこの間まではお父さんも生きていて口出ししまくっていた。三河統一なんて私の功績じゃない。叔父さんやおじいさんたちの功績だよ! だいたい私の意見なんて、今まで何も通ったことがないじゃないか! 何が当主だ! そうだよ! どーせ私はお飾りだよっ! 叔父さんやおじいさんたちの人形なんだよ!」
「……」
「私はいつまでも人形なんて嫌だ。だから私は世に私自身の実力を示すことにした」
「と、言うと?」
尾張に侵攻する」
「なんと!」
「私一人の力で尾張を併合し、二か国の大大名になって見せる!」
「……」
「今、尾張は混乱の渦中にある。下四郡守護代・織田大和守達勝
(たつかつ)の配下、清洲三奉行(きよすさんぶぎょう)の一人・織田弾正忠信秀(だんじょうちゅうのぶひで)が台頭して主家を圧倒するようになっている。最も勢いのあるコイツを倒してしまえば、世間は誰も私のことをオモチャだなんて思わない」
「弾正忠信秀は非常にずる賢い男と聞いておる。はたして若ごときにそのようなクセモノを倒せますかな?」
「倒せるよっ! 倒してみせるぜー!」

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