3.こころ

ホーム>バックナンバー2023>令和五年7月号(通算261号)裏切味 守山崩れ3.こころ

ワグネル反乱
1 吾輩は猫である
2.坊っちゃん
3.こころ
4.明 暗
5.それから

 松平清康は守山城を攻めるために、敵の敵、つまり織田信秀の敵対勢力を味方につけた。
 隣国の美濃守護・土岐頼芸
(ときよりのり)の重臣、美濃三人衆(西美濃三人衆)を誘ったのである。
「安藤伊賀守守就、ただ今参上!」
 岡崎には三人衆の年長・安藤守就
(安藤道足。「ロス味」など参照)がやって来た。
「今から三河松平総力を上げて守山城を攻める。織田信秀の力を削ぐため、美濃三人衆には尾張国境沿いを脅かしてほしい」
「ははっ」
 守就が軍勢を見回して問うた。
「これが総力ですか? 松平党は七、八千人は動員できると聞いておりましたが、存外少ないですな」
「これから加わる者たちもいるのだ」
「ですか。それに、何やら目が泳いでいるヤツラも混じっていますが」
「いらぬ詮索はしなくてもいい。貴殿は加勢してくださればそれでいいのだ」
「ははっ。では早速――」
 去ろうとした守就を、清康が呼び止めた。
「待て」
「はっ」
「私は時々、全くよくわからなくなる時がある」
「何がでございますか?」
「人の心がだ」
「こころ?」
「そうだ。私には人の心が読めぬ」
 守就は笑った。
「それは誰でもでございましょう。人の心を全部読める人なんて存在しますまい」
「少しでもいいのだ。私は人の心が読めるようになりたい」
「はあ」
「たとえば、裏切り者を瞬時に判別できるようになりたい」
「ははは」
「貴殿は裏切り者を見破る方法を知らないか?」
 守就はすっとぼけた。
「拙者には裏切り者の気持ちなんて、とんとわかりませぬな。拙者は一生涯、土岐頼芸さまにお仕えするつもりでございますから〜」

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