6.始末 | ||||||||||||||
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医者の所に患者がやって来た。
「あのー、体調悪いんです〜」
「どう悪いんですか?」
「ゲロして下痢(げり)して苦しいんです〜」
医者は診察して告げた。
「コロリ(コレラ)ですね」
「コロリ?」
「ええ、コロリと死ぬのでそんな病名がついたんですよ」
患者は驚いた。
「ええ!私、死ぬんですか!?」
「私の言うことを聞けば大丈夫です」
「どうすれば?」
「こちらへどうぞ」
医者は患者を空地のバラック小屋へ連れて行った。
「さ、どうぞ。中へお入りください」
患者が小屋に入ると、医者は外からカギをかけた。
患者は不安になった。
「何するんですか?」
医者は答えた。
「小屋ごとあなたを燃やすんですよ。そうすればもう、誰にもうつることはありません」
「ひぇ!そんな!死ぬなんて嫌だ!さっきあなたは『私は言うことを聞けば大丈夫です』って、言ったじゃないですか〜」
「確かに言いました。言ったとおり、あなた以外はみんな大丈夫ですよ」
「!」
* * *
事実、重症コレラ女工をまとめて隔離して毒殺したり焼き殺したりしていたことが細井和喜蔵(ほそいわきぞう)の『女工哀史』などに書かれている。
殖産興業下の企業は、人命よりもカネを重視していたということであろう。
近年でも、たびたび「ブラック企業」が話題になるが、似たようなことが起こらないことを願うしかあるまい。