4.黒駒騒動をどう収めたか? | ||||||||||||||
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ある日のこと、豊臣秀吉は近習たちを誘った。
「今日は馬場で乗馬でもしようではないか」
「まことに結構なことで」
意地悪な秀吉には魂胆があった。
「実はいまだに人を背中に乗せない暴れ馬が二頭いる。『卯月(うづき)』と『黒駒(くろこま)』じゃ。誰かこれらを乗りこなしてみよ」
「ほー」
近習たちの目が輝いた。
暴れ馬は怖いが、うまく乗りこなせばもらえるわけである。
ます、「卯月」が連れてこられた。
「ひんひーん!(なになに?オレにケンカ売ってるってか?)」
「卯月」は鼻息荒げ足踏み鳴らし戦闘モードである。
「では、私がいただき!」
近習の一人が飛び乗ったが、
「ひーん!(きたねーケツ乗せるんじゃねー!)」
いきなり振り落とされた。
「では、私が!」
「次は拙者が!」
「おれこそ制圧してくれるわー!」
近習たちは次から次へと「卯月」に襲い掛かっていったが、なかなか乗りこなせる者がいない。
「卯月」はふんぞり返った。
「ばるるっ!(次はどいつだ。誰でもいいからかかってきやがれ!)」
近習たちは怖気(おじけ)づいた。
賤ヶ岳の七本槍 |
加藤清正(かとうきよまさ) 福島正則(ふくしままさのり) 脇坂安治(わきさかやすはる) 加藤嘉明(かとうよしあき) 平野長泰(ひらのながやす) 片桐且元(かたぎりかつもと) 糟屋武則(かすやたけのり) |
秀吉はイライラしてきた。
「えーい! 何をやっておるのじゃー!」
「拙者にお任せあれ」
名乗り出たのは猛将・福島正則(ふくしままさのり)。
例の賤ヶ岳の七本槍(しずがたけのしちほんやり)の一人である。
「おお、福島殿が行くか!」
「よっ! 七本槍!」
「見ものだな」
「ぶひーん?(ふーん。今度はアンタがやるってぇの?)」
「卯月」は正則をにらみつけた。
正則も負けずににらみつけた。
「卯月」も負けまいと返した。
正則も渾身(こんしん)の力を込めてガンつけた。
「卯月」は参った。
「ひえ〜ん(コイツだけはかなわん〜)」
で、自ら背中を許した。
「ばふっ(さ、さ、乗ってなすって、親分)」
「物分かりがいいウマじゃねーか」
正則は頭をなでて乗った。
「おー」
「乗ったぞ!」
近習たちは声を上げた。
秀吉も御満悦であった。
「さすがは正則じゃ。――よし、今度は『黒駒』をつれて来い」
ところが、『黒駒』はなかなか出てこなかった。
「どうした? 『黒駒』はまだか?」
秀吉が右筆(秘書)に聞いた。
「申しわけございません。ただ今お持ちします」
しばらくして、右筆は戻ってきた。
「殿下、持参しました」
「おう。待ちかねたぞ」
振り返った秀吉が見たものは、「黒駒」ではなく、「黒ごま」をたっぷりまぶした握り飯であった。
秀吉は怒鳴った。
「アホー! わしが連れてこいと命じたのは『黒駒』じゃー! 『黒ごま』なんかじゃねえー!」
「え、違うの? これじゃないの? それともゴマのモチ?」
「たわけがー! キサマァー、今、わしらが何をしておるのかわかっておるであろうー!!」
さっきの御満悦はどこへやら、秀吉は完全にキレていた。
正則は不安になった。
(これはまずい。殿下のこの御機嫌では、拙者も「卯月」がもらえなくなってしまうかも知れぬ……)
そこで正則は、そばにいた曽呂利新左衛門を秀吉のほうに押しやった。
「なになに、ちょっと怖いぃ〜」
新左衛門は嫌がった。
「お前しかいないのだ。なんとかしてくれ」
「そう言わはってもぅ〜」
秀吉は新左衛門に気づいた。
「なんじゃ?」
「へい。その……、別にあの! その! なんのっ!」
「そうか、お前か。『黒駒』と『黒ごま』をわざと間違えさせたのは! そうじゃな!
こんなことをするのはお前しかおるまい!」
「ああ、濡(ぬ)れ衣でございまする〜! 私は天地無用――、もとい、天地神明に誓って無実でございまする〜!」
こんなとばっちりを食らっては、新左衛門もたまったものではない。
秀吉の怒りは収まらなかった。
「ならば、お前が無実であるアカシを見せてみよっ!」
「そんな〜」
新左衛門は困った。
窮地に陥った。
そのとき、突然ひらめいた。
こんな狂歌を作ったのである。
にぎり飯黒ごまかけて出しつれば
みな人ごとに「あらうま」と言う
秀吉は固まった。
「ううう……」
うなり始めた。
「うぷっ!」
たまらず吹き出した。大笑いした。
「ぎゃひゃはっははぁひぃー! くだらん! 実にくだらーん!!」