4.黒駒騒動をどう収めたか?

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芸人恐るべし〜曽呂利新左衛門は実在したか?
1.新左衛門はいつ登場したか?
2.豊臣秀吉はサルそっくりか?
3.瓢箪からホントに駒は出るか?
4.黒駒騒動をどう収めたか?
5.新左衛門はなぜ狂歌がうまいか?
6.世界で一番大きな歌とは?
7.新左衛門はいつ没したか?

 ある日のこと、豊臣秀吉は近習たちを誘った。
「今日は馬場で乗馬でもしようではないか」
「まことに結構なことで」
 意地悪な秀吉には魂胆があった。
「実はいまだに人を背中に乗せない暴れ馬が二頭いる。『卯月
(うづき)』と『黒駒(くろこま)』じゃ。誰かこれらを乗りこなしてみよ」
「ほー」
 近習たちの目が輝いた。
 暴れ馬は怖いが、うまく乗りこなせばもらえるわけである。

 ます、「卯月」が連れてこられた。
「ひんひーん!
(なになに?オレにケンカ売ってるってか?)
「卯月」は鼻息荒げ足踏み鳴らし戦闘モードである。
「では、私がいただき!」
 近習の一人が飛び乗ったが、
「ひーん!
(きたねーケツ乗せるんじゃねー!)
 いきなり振り落とされた。
「では、私が!」
「次は拙者が!」
「おれこそ制圧してくれるわー!」
 近習たちは次から次へと「卯月」に襲い掛かっていったが、なかなか乗りこなせる者がいない。
「卯月」はふんぞり返った。
「ばるるっ!
(次はどいつだ。誰でもいいからかかってきやがれ!)
 近習たちは怖気
(おじけ)づいた。

賤ヶ岳の七本槍
加藤清正(かとうきよまさ)
福島正則(ふくしままさのり)
脇坂安治(わきさかやすはる)
加藤嘉明(かとうよしあき)
平野長泰(ひらのながやす)
片桐且元(かたぎりかつもと)
糟屋武則(かすやたけのり)

 秀吉はイライラしてきた。
「えーい! 何をやっておるのじゃー!」
「拙者にお任せあれ」
 名乗り出たのは猛将・福島正則
(ふくしままさのり)
 例の賤ヶ岳の七本槍
(しずがたけのしちほんやり)の一人である。
「おお、福島殿が行くか!」
「よっ! 七本槍!」
「見ものだな」
「ぶひーん?
(ふーん。今度はアンタがやるってぇの?)
「卯月」は正則をにらみつけた。
 正則も負けずににらみつけた。
「卯月」も負けまいと返した。
 正則も渾身
(こんしん)の力を込めてガンつけた。
「卯月」は参った。
「ひえ〜ん
(コイツだけはかなわん〜)
 で、自ら背中を許した。
「ばふっ
(さ、さ、乗ってなすって、親分)
「物分かりがいいウマじゃねーか」
 正則は頭をなでて乗った。
「おー」
「乗ったぞ!」
 近習たちは声を上げた。
 秀吉も御満悦であった。
「さすがは正則じゃ。――よし、今度は『黒駒』をつれて来い」

 ところが、『黒駒』はなかなか出てこなかった。
「どうした? 『黒駒』はまだか?」
 秀吉が右筆
(秘書)に聞いた。
「申しわけございません。ただ今お持ちします」

 しばらくして、右筆は戻ってきた。
「殿下、持参しました」
「おう。待ちかねたぞ」
 振り返った秀吉が見たものは、「黒駒」ではなく、「黒ごま」をたっぷりまぶした握り飯であった。
 秀吉は怒鳴った。
「アホー! わしが連れてこいと命じたのは『黒駒』じゃー! 『黒ごま』なんかじゃねえー!」
「え、違うの? これじゃないの? それともゴマのモチ?」
「たわけがー! キサマァー、今、わしらが何をしておるのかわかっておるであろうー!!」
 さっきの御満悦はどこへやら、秀吉は完全にキレていた。

 正則は不安になった。
(これはまずい。殿下のこの御機嫌では、拙者も「卯月」がもらえなくなってしまうかも知れぬ……)
 そこで正則は、そばにいた曽呂利新左衛門を秀吉のほうに押しやった。
「なになに、ちょっと怖いぃ〜」
 新左衛門は嫌がった。
「お前しかいないのだ。なんとかしてくれ」
「そう言わはってもぅ〜」
 秀吉は新左衛門に気づいた。
「なんじゃ?」
「へい。その……、別にあの! その! なんのっ!」
「そうか、お前か。『黒駒』と『黒ごま』をわざと間違えさせたのは! そうじゃな! こんなことをするのはお前しかおるまい!」
「ああ、濡
(ぬ)れ衣でございまする〜! 私は天地無用――、もとい、天地神明に誓って無実でございまする〜!」
 こんなとばっちりを食らっては、新左衛門もたまったものではない。
 秀吉の怒りは収まらなかった。
「ならば、お前が無実であるアカシを見せてみよっ!」
「そんな〜」
 新左衛門は困った。
 窮地に陥った。
 そのとき、突然ひらめいた。
 こんな狂歌を作ったのである。

  にぎり飯黒ごまかけて出しつれば
   みな人ごとに「あらうま」と言う

 秀吉は固まった。
「ううう……」
 うなり始めた。
「うぷっ!」
 たまらず吹き出した。大笑いした。
「ぎゃひゃはっははぁひぃー! くだらん! 実にくだらーん!!」

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