ホーム>バックナンバー2002>４．伴善男の隆盛〜大納言昇進

　伴善男は嘉祥元年(848)に参議に列し、貞観二年(860)に中納言(ちゅうなごん)に昇格、貞観六年(864)には大納言に昇った。
　同時昇進の平高棟(たいらのたかむね)と並び、政界でナンバーフォーの地位に就いたのである。
　以下が貞観六年当時の参議以上の閣僚である。

　それにしても、没落貴族である善男が、なぜここまで出世できたか？
　大きな理由は次の三つであろう。

　まず、善�ﾄ訴訟事件によって、現閣僚及び閣僚候補である弁官たちを一掃してしまったことである。
　これにより、善男は注目を浴び、彼の上司は出世の芽を摘まれた。
　善男の勝因は人並みはずれた「出世欲」と、「努力」から得た「知力」であろう。

　次に、貞観五年に咳逆病(がいぎゃくびょう。インフルエンザ？)が大流行し、大納言源定(みなもとのさだむ)・同源弘(ひろむ)といった閣僚を含む多くの役人が死んでしまったことである。
　これによって善男の地位は、ところてん式に大納言に押し上げられた。
　彼には病気に負けないだけの「体力」があり、「運」もあったのである。

　もう一つは、「コネ」である。
　善男は嘉祥三年(850)に中宮大夫(ちゅうぐうのだいぶ)に任じられた。
 中宮大夫とは、中宮職(ちゅうぐうしき。ここでは皇后事務所)の長官で、中宮(皇后)・藤原順子(じゅんし・のぶこ)のお世話をする官職である。そして、順子が皇太后になると、皇太后大夫に転じ、順子が太皇太后になると太皇太后大夫に転じた。つまり、失脚の年までずっと、彼は順子のそばに仕えていたわけだ。
「大夫は次も次も善男でなければだめぞよ」
　順子がダダをこねたのであろう。
　何しろ順子は仁明天皇(にんみょうてんのう)の奥様である。文徳天皇(もんとくてんのう)の生母である。彼女の言うことは絶対であった。彼女の兄・良房ですら、めったなことで口出しできなかったと思われる。まして弟・藤原良相(よしみ)などは言いなりであったろう。
「順子のお気に入りだから」
　善男は仕事もできるし、良房としても昇進させないわけにはいかない。彼が民部卿(みんぶきょう。民部省長官。今でいう財務相)等を兼任できたのも、下野守等を遙任できたのも、順子の口利きによるものではなかろうか。

「出世欲」「努力」「知力」「体力」「運」そして「コネ」――。
　出世をしたい方は、ここまでの善男を参考にされたし。
　失脚したい方は、これからの善男を見習うべし。