6.春色のメロディー | ||||||||||||||
ホーム>バックナンバー2019>令和元年五月号(通算211号)令和味 長屋王の変6.春色のメロディー
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天平二年(730)正月十三日、大宰帥(だざいのそち)・大伴旅人(おおとものたびと)邸で梅見の宴が開かれた。
旅人は中納言でもあるが、長屋王の変以前から大宰府に赴任していた。
「俺は藤原四兄弟に警戒されて左遷されたのだ」
旅人は隼人討伐に活躍した大将軍である。
「口惜しい限りだ。俺が在京していれば、むざむざ親王殿下を殺させやしなかった」
大宰少弐・小野老(おののおゆ)が苦笑した。
「しかし藤原四兄弟も無茶しますな。政権首班をほふりますか」
大宰少弐・粟田必登(あわたのひと)も同じた。
「最近、四兄弟って調子に乗ってますよね。夫人だった妹(光明子)を強引に前例のない皇后に押し上げたり」
筑前守・山上憶良(やまのうえのおくら)も話の輪に入ってきた。
「もう一人の夫人・県犬養広刀自が男子(安積親王)を産んだために焦ったんじゃないですか?」
筑後守・葛井大成(ふじいのおおなり)も眉をひそめた。
「陛下(聖武天皇)も陛下ですよ。曲がったことが大嫌いな親王殿下が呪詛なんてするはずないじゃないですか。それなのに讒言(ざんげん)を信じて死に追いやってしまわれるなんて。その後もひどいですよ。親王一家の遺体を焼き砕いて川や海に捨てさせたっていうじゃないですか」
「ただ、親王殿下の遺骨だけは土佐で葬らせたそうだな。しかし、たたりのせいか土佐で死ぬ人が多く出たため、紀伊にある小さな島に改葬させたというが」
「ひどい目にあわせたんだから、たたりだって起こりますよね〜」
「藤原四兄弟もただですまないかもよ」
「四兄弟そろって死んじゃったりして」
「こわいこわい〜(「テロ味」参照)」
この宴には、あの笠麻呂改め満誓も列席していた。
「みなさまがた、勝手なこと言われてますけど、用心されたほうがよろしいですよ」
「何が?」
「藤原四兄弟の監視の目が、どこで光っているかわかりませんからなー」
その時、憶良が満誓の額の傷に気づいた。
「ところで、その傷はどうされたんですか?」
「ああ、これかい」
『下郎が!』
バカンッ!
ぱっくり、ぱぴゅー!
満誓がしみじみと傷をなでながら答えた。
「いわゆる、『断末魔の叫び』ってヤツだよ」
[2019年4月末日執筆]
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