5.さらば夫

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後期高齢者(長寿)医療制度
1.高橋長者
2.人魚の肉
3.夫ゲット
4.原因発覚
5.さらば夫
6.年齢不詳
7.諸国放浪

 また二十年ほどが過ぎた。
 元明天皇の御世、平城京遷都間もない頃である。
 千代の母は死に、ダンナαも老いてきた。
 夫婦で出かけると、前は人から、
「きれいな奥さんですねー」
 と、言われたものだが、そのうちに、
「かわいい娘さんですねー」
 と、勘違いされるようになり、今では、
「かわいいお孫さんですねー」
 と、勘違いされるようになってしまった。

 ダンナαはおもしろくなった。
 千代に、
「一緒にどっか行こ」
 と、誘われても、断るようになった。
「いやだ。おまえと歩くと絶対に夫婦に見られないから」
「人がどう思うといいじゃない」
「おまえはいいかもしれないけど、おれがイヤなんだよー!」
 ダンナαはムッとした。機嫌が悪くなった。ブリブリ怒り出した。
「だいだいおかしーじゃねーか!なんでおまえだけ年取らないんだ!なんで息子や娘より年下に見えるんだ!ふざけるのもいい加減にしろーっ!」
「ふざけてなんかないよ〜」
「なんだその少女みたいな顔はー!おまえの顔を見てると、むらむらめらめらムカツクんだよーっ!」
 千代は人魚の肉を食べた話をいまだ誰にもしていなかった。したところで、誰にも信じてもらえるはずがなかった。

 しばらくして、ダンナαは病気になった。
 日に日に弱り、いよいよ臨終を迎えた。
 千代は泣いた。
「死んじゃやだー!あなたが死んだら、あたしももうじき後を追うように死んじゃうからねー!」
 ダンナαは虫の息でせせら笑った。
「フッ!おまえが死ぬ?ウソだ!六十歳になってもピチピチムチムチ元気モリモリのお前が?ありえなーい!アホくさくて笑っちまうぜ!ハハハハーッハハハ!あんまり笑いすぎて、今すぐ死にそうだぜぇー!」
 千代は悲しかった。

 数日後ダンナαは死んだ。
 千代はダンナαの墓にツバキの木を植えた。

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