6.年齢不詳

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後期高齢者(長寿)医療制度
1.高橋長者
2.人魚の肉
3.夫ゲット
4.原因発覚
5.さらば夫
6.年齢不詳
7.諸国放浪

 またまた二十年ほどが過ぎた。
 聖武天皇の御世、藤原四兄弟が幅を利かせていた頃である。
 何人かいた子はみんな死に絶え、孫やひ孫の世代になっていた。
「おばあちゃんは若いねー」
 孫やひ孫たちは初めのうちはそう呼んでいたが、「おばあちゃん」と呼んでも他人は信じないので、いつしか誰もそう呼ばなくなっていた。
 孫やひ孫たちは千代のことを気味悪がった。
「それにしてもおばあちゃん、変だよね?」
「全然年とらないよねー?」
「本当のおばあちゃんじゃないんじゃないの?」
「きっとそうだ。そうじゃなかったら、キツネかタヌキか何か得体の知れないモノに違いない」
 孫やひ孫たちは、たんだん千代の所に寄り付かなくなっていった。

 さびしくなった千代は、何も知らずに言い寄ってきた男と内緒で再婚した。
 名は伝わってないので「ダンナβ」としておく。
 ダンナβは前夫と違ってブサイクで貧乏であった。
 容姿や金銭的に劣等感を持っていた彼は、美少女に見える千代と結婚できてとても喜んでいた。
「夢みてーだ。このおらがバツイチとはいえ、こんなかわいい娘と結婚できるなんてー」

 ところが、あるとき孫やひ孫たちに再婚したことがばれた。
 千代は、ダンナβと孫やひ孫たちが深刻な顔で話し込んでいるのを見かけた。
 千代は嫌な予感がした。
 ダンナβは混乱して帰ってきた。
「千代。話がある」
「なーに?」
 千代はますます不安であった。
「千代ってバツイチって聞いたけど、前夫の後妻だったの?」
「……」
「なんか変だよな。孫もひ孫もいる千代って、いったいどうなってるの?そもそも君って、いったいいくつなの?」
 千代はニッコリ笑ってはぐらかした。
「ひとつ」
「個数じゃないよ!年齢だよ!何歳?」
「いくつに見える〜?」
「十五、六」
「それ以上何を求めるの?そう見えるならそれでいいじゃない」
「よくないよ。おらは君のダンナだよ。他人はどうあれ、ダンナにまで年を隠す必要はないじゃないか。誰にも言わないから、ホントはいくつなの?」
「……。言わない」
「なんで?」
「言うと驚くから」
「驚かないよ!」
「ホントに?ホントに驚かない?」
「ホントだって!おらを信じなよ〜。おらたち夫婦じゃないか〜。おらは君のことが死ぬほど好きなんだ。君のホントの年がわかったぐらいで、まさか君を捨てるようなことはしないよ〜」
 千代は覚悟を決めた。
 で、本当の年を明かした。
「八十歳……」
 ダンナβは固まった。
「え……。ハチ……?二十八、だった……、とか?」
「ううん。はちじゅっさい」
 ダンナβはぶっ飛んだ。頭を抱えた。しばしろれつが回らなくなった。
「はあはあ、は!は!はっ!はちはちはちじゅっさいぃー!!」
 ダンナβは震える指を折って数えた。
「――ってことは、おらのばばばあちゃんより、はははるかに年上でねーかぁー!うえぇぇー!」
 ダンナβは瞳孔
(どうこう)全開で泡まで吹きながら、汚いものでも避けるかのようにおろおろ後ずさりした。
 千代はとっさに必死で夫ににじり寄った。
「でも!でも!でもっ!十五、六歳に見えるでしょ!? でしょっ!? でしょっ!?」
 ダンナβは目を白黒させながらも否定はしなかった。
「う、うん。かわいいよ……。千代はとんでもなくかわいいよ……。まるで、バケモノみたいに……」

 その晩、ダンナβは千代を捨てた。
 財産を全部持ち逃げして、どこか遠くへ逃げていった。

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