1.建部社 | ||||||||||||||
歴史チップス>バックナンバー2023>令和五年11月号(通算265号)牛虎味 丑寅注意1.建部社
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貞観六年(864)のある日、陰陽師(おんみょうじ。「安倍味」「陰陽味」等参照)・弓削是雄(「弓削氏系図」参照)は、近江介・藤原有蔭(ふじわらのありかげ。「南家系図」参照)の依頼で近江国庁(滋賀県大津市)へ出張した。
「大属星(だいぞくしょう)を祭ってほしい」
簡単にいえば、北斗七星を使った星占いのおまじないで、陰陽師の仕事の一つであった。
是雄は仕事をとどこおりなく終わらせると、瀬田駅(せたのうまや。大津市)で泊まる前に寺社巡りをすることにした。
「せっかく近江に来たんだから、建部社と石山寺に参詣してみるか」
建部大社(たけべたいしゃ。大津市)は近江国の一宮である。
祭神は日本武尊(やまとたけるのみこと。「皇族味」等参照)で、すでに奈良時代後期から瀬田の唐橋の近くに鎮座していた。
日吉大社(ひえたいしゃ・ひよしたいしゃ)の山王祭、天孫神社の大津祭と並ぶ大津三大祭りの一つ、船幸祭で有名である。
是雄はその境内で不釣り合いな「アベック」に遭遇した。
坊主と若く見える女である。
(生臭坊主め)
是雄は石灯籠(いしどうろう)の陰に隠れて様子をうかがった。
「まずいよ〜。明日から逢えなくなっちゃうよ〜」
「なんで?」
「とうとうダンナが帰ってきやがる」
是雄は苦笑した。
(しかも不倫じゃねーか)
坊主は若く見える女の手を引っ張った。
「ふーん。そんなら当分会えなくなるだろうから、今日は楽しみまくるぞ」
「どこ行くの?」
「そこ」
「そこって、草むらじゃーん」
「大丈夫大丈夫。誰も見てねーから」
「いやーん」
がさがさ!
がばっ!
ぬばっ!
坊主と若く見える女は草むらであられもないことをおっ始めた。
(スゲーな真昼間っから。しかも神聖なお社の境内で。この罰当たりめが!)
是雄は仕舞いまで全部見届けてから石山寺に向かった。