5.双 六 〜 おぞましき賭け | ||||||||||||||
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ある時、ひまそうにしていた光仁天皇に、百川が勧めた。
「どうです? 皇后陛下と双六(すごろく)でもされては?」
光仁天皇は、気の進まなさそうであった。だるそうに脇息(きょうそく)にもたれて言った。
「あれとの勝負は飽きた」
「何か賭(か)ければ、燃えるんじゃないですか。たとえば美男美女とか」
すると、今までとろんとしていた光仁天皇の眼光が鋭くなった。起き上がって乗り気になった。
「それはいい!」
百川は井上内親王を呼んできた。
「何ですか?」
光仁天皇が持ちかけた。
「賭け双六をしないか? わしが勝ったら、お前はわしに美女を紹介すること。お前が勝ったら、わしはお前に美男を紹介しよう」
「ホホッ。おもしろそうですね」
井上内親王も乗った。こうして二人は双六を始めた。
百川はほくそ笑んだ。
(うまくいった)
実はこれが百川の策略だったのである。
(皇后を追い落とすには、まず、天皇との仲を引き裂くことだ。男女の仲を壊すには、何より第三の男女の登場が一番! この勝負、どっちが勝っても二人は不仲に傾く!)
勝負は井上内親王が勝った。
「ああ、負けた!
負けた!」
光仁天皇は悔しそうに盤上をかき回した。
「ねえ」
井上内親王は目に星を抱いて夫にねだった。
「美男、紹介してっ」
光仁天皇は怒った。
「冗談に決まっているではないか!」
「ウソばっかり。自分が勝ったら本当に紹介してもらおうと思っていたくせに〜」
「……」
「ねえ、美男〜」
百川も迫った。
「陛下。約束じゃないですか。約束は守らないと」
すると、光仁天皇は思わぬことを口にした。
「そんなら百川。お前を井上にくれてやろう」
「え!」
百川は驚いた。そして、肝心なことに気付いた。
(しまった!
私は美男だった!)
「うん。百川でもいいわっ」
井上内親王はうれしそうに飛び付いてきた。五十六歳のオバさんの顔が大接近してきた。
(くっ、食われる〜!)
百川は、すんでのところで彼女の顔をはねのけた。
「わっ、私はもっと美男を知っています! 今からそいつを連れてきます! しばしお待ちを!」
百川は逃げた。
目の色変えて美男を探した。
見つかった。助かった。そいつの手を引っ張った。
「ちょっと来てください!」
そいつは山部親王だった。
「なっ、なんだよ、突然?」
訳がわからないまま、山部親王は井上内親王に献上された。
百川が紹介した。
「美男です」
訳がわからないまま、山部親王も自己紹介した。
「えへ、美男です」
百川が井上内親王に勧めた。
「どうぞ、お召し上がりください」
「え?
おい百川、どういうことだ?」
「ごちそうさまっ!」
さっそく連れて帰ろうとした井上内親王に、光仁天皇がしかりつけた。
「バカ者!
お前たちは親子ではないか!」
井上内親王が山部親王の手を握ったまま言い切った。
「山部はあなたの息子かも知れないけど、私にとってはただのオトコですよぉ。ウヒッ!」