2.韓人が入鹿を殺した?

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緊迫!朝鮮半島!!
1.孝徳天皇即位
2.韓人が入鹿を殺した?
3.将を射んと欲すればまず馬を射よ
4.中大兄皇子の秘密
5.古人大兄皇子の変
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飛鳥京[1][2][3][4][5][6][7]

 中大兄皇子は、古人大兄皇子が吉野へ去ってしまってからも疑っていた。
「異母兄には野心はないのであろうか?」
 中大兄皇子の父は舒明天皇であり、母は皇極天皇である。
 つまり、古人大兄皇子は彼の母違いの兄なのである。
「さ〜あ。本音を隠して生きるのが人間という動物ですからね」
 中臣鎌子もまた、古人大兄皇子を疑っていた。
「古人皇子は蘇我入鹿に立てられた皇太子です。彼と入鹿山背大兄王
攻めも共に行った盟友なのです。その彼が、恩人であり、盟友でもある入鹿を殺した我々をよく思っているはずがありません」
「であろうな」
「それに彼は入鹿が殺されるのを見て自邸に逃げ帰ったときに、妙なことを言ったそうですよ」
「妙なこと?」
「はい。『韓人
(からびと)入鹿を殺した。私は心が痛む』と」
「……!」
「おかしな話です。韓人といえば、百済人か新羅人か高句麗人といった渡来人のことでしょう。太子や私を初め襲撃者はみな日本人で渡来人は一人もいませんでした。それなのになぜ彼はそんなことを口走ったんでしょうか?彼は入鹿暗殺の一部始終を目の前で見ていたのです。それも特等席で!その彼が我々を韓人と見間違えるはずがありません」
「……」
「それとも、我々の中に韓人がいたんでしょうか?」
「アハハ!」
 中大兄皇子は笑い飛ばした。
「余は知っているぞ。昔の大王・彦太尊
(ひこふとのみこと。継体天皇)と当時の百済の国王・武寧王(ぶねいおう)は同一人物だそうだ(「国境味」参照)。おそらくそのことを言ったのであろう」
「え!ということは、天皇家は韓人!」
「違うのだ。天皇家は日本人だ。もとは大王家なのだ。彦太尊は誉田別尊
(ほんだわけのみこと。応神天皇)の五世孫であり、海を渡って百済の国王となり、その後に大王、つまり日本天皇を兼任した。神話にあるスサノオの新羅渡海伝説がそのことを物語っている」
 素戔嗚尊
(すさのおのみこと)は高天原(たかまがはら)を追放された後(「倭国味」参照)新羅に渡ってしばらくそこに住んだ後、出雲へ移ったという。
「ということは、百済のほうが日本人の国!」
「そうなのだ!百済王家は日本人なのだ!百済王家は大王家の末裔であり、日本天皇家と同族なのだ!つまり、日本人である百済王族が、日本天皇に即位したとしても、何ら不自然ではないということだ!」
「確かに」
「しかし、中にはいかにも天皇家の祖先が韓人のように書かれている史書がある」
「その史書とは?」
蘇我馬子が編修した『天皇記』だ。馬子はこの史書において蘇我氏こそが真の天皇家であり、今の天皇家は実は渡来人だったと主張した!つまり蘇我氏は子孫を天皇にするために歴史を改竄
(かいざん)したのだ!」
「なるほど。蘇我氏天皇家を乗っ取ろうとしていたことは知っていましたが、そのために偽書まで作っていたんですね」
「そういうことだ。真実は蘇我氏こそが韓人、渡来人だったのだ!だいたい蘇我氏の先祖の名前を見てみるがいい。馬子の祖父の名は『高麗
(こま)』であり、曽祖父の名は『韓子(からこ)』だ。蘇我氏日本人であれば、そのようなもろに韓人のような名前を付けるはずがないであろう!宗教もそうだ。蘇我氏が信仰するのは仏教!真の天皇家であれば、神道を信じ、仏教を排除するはずではないか!」
「その通りですな。でも、もう安心です。偽書『天皇記』は蘇我蝦夷が自殺するときに燃やしてしまいました。したがって、蘇我氏が真の天皇家だなんてもう誰も信じないでしょう」
「そうであろうか?蘇我氏にとって『天皇記』は最終兵器だ。蝦夷にとっては父馬子の最大の業績なのだ。そんなものをたやすく燃やしてしまったりするであろうか?現に『天皇記』とともに編修された『国記』は余の手元にある」
 『天皇記』『国記』も内容は不明だが、蝦夷が燃やそうとしたとき、船恵尺
(ふねのえさか)が『国記』だけを火中から取り出し、中大兄皇子に献上したという。
「余は恵尺に『天皇記はどうした?』と聞いた。『燃えたものと存じます』『確実に燃えたところを見たか?』『いえ、そこまでは……』恵尺は断定しなかった。そこで余はこう考えた。これは蝦夷が『天皇記』を死守するため弄
(ろう)した最期の策なのだと!そうに違いない!ヤツは進んで余に『国記』を提出することによって、『天皇記』を隠匿(いんとく)したのだっ!」
皇太子ぃ〜。深読みですねぇ〜」
「『天皇記』は燃えていない!いいや、間違いなくまだこの世の中に存在する!そして、その『天皇記』を託された者こそ、入鹿によって皇太子に擁立された古人皇子であろう!最低でもヤツは『天皇記』のありかは知っているはずだ!このままヤツを放っておけば、いつか必ずその偽書を掲げ、偽天皇蘇我氏の生き残りを擁立し、天下の実権を握るつもりなのだ!そんなことはさせるかっ!吉野へ兵を送れ!何が何でも古人に『天皇記』のありかを吐かせるのだーっ!」

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