4.雲ながれゆく

歴史チップス>バックナンバー2023>令和五年9月号(通算263号)処理味 嘉吉の乱4.雲ながれゆく

プリゴジン&処理水
1.その男
2.錯 乱
3.夜の戦士
4.雲ながれゆく
5.賊 将
6.まぽろしの城
7.あほうがらす
8.まんぞくまんぞく

 居城・播磨坂本城(さかもとじょう。兵庫県姫路市)に帰った赤松満祐は、返せなかった足利義教の首の葬儀を安国寺(あんこくじ。兵庫県加東市)で執り行うと、赤松則繁に部下五十騎を付けて備中の善福寺に向かわせた。
 足利冬氏はこの寺で弟とともに禅僧として暮らしていたのである。
 則繁は冬氏の顔を見るなり平伏してお願いした。
「上様」
「……」
「上様。どうか公方さまになってください」
「上様――。公方さま――。心地よい響きじゃの〜う」
管領細川持之は暴君の息子を次の将軍にしようとしています。わずか八歳のお子様をお飾りに立てようと企んでいます。こんなお子様より将軍にふさわしいのは、二十九歳の大人なあなたさまです。どうか、公方さまになってください。あなたさまが公方さまになれば、無念のうちに亡くなられたおじいさまやお父さまもお喜びになられるかと存じます」
「その通ーり!」
 冬氏に断る理由はなかった。
 彼は立ち上がってメラメラ決意した。
将軍就任はわが祖父、わが父の悲願であった! 今その悲願を達成する機会が、孫である私に舞い降りてきたのだ! 私は運命に逆らわない! 逆らったところで運命から逃れられるわけがない! 私は雲ながれゆくように、運命に身をゆだねるであろう!」

 冬氏は坂本城にやって来た。
「ようこそいらっしゃいました」
 満祐は喜び、彼を定願寺に住まわせ、「井原御所」と呼ばせた。
「恐れながら『冬氏』ではなんとなく春が来なさそうなので、お名前も公方さまらしい名前に改名しましょう」
「どんな名がいい?」
「そうですね。足利義尊とか」
 冬氏は喜んだ。
「二代以降歴代将軍が名乗る『義』に、初代将軍尊氏公の『尊』! この上ない最強の名前ではないか! 気に入った! そう名乗ろう!」

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