歴史チップス>バックナンバー2023>令和五年9月号(通算263号)処理味 嘉吉の乱3.夜の戦士
いったん摂津中島にとどまっていた赤松満祐以下約七百騎は、使者が斬られたことを知って再び西国街道を駆け出した。
「管領殿は味方じゃなかったのか?」
「裏切ったな、コノヤロー!」
それでも、なぜか追手が来ないため、みなみな自然に遅歩きになった。
「なんだ。やんのかやんないのか、どっちだよ?」
赤松教康が振り向いてあちこち眺めまわしてみた。
赤松則繁も長刀を振り回してわめいた。
「将軍ぶっ殺したのに、手ごたえなさ過ぎてつまんねー!」
満祐は笑った。
「今は来なくても、そのうちに大軍で攻めて来るさ」
「俺たちは大軍相手で大丈夫か?」
「応永の頃、四代将軍足利義持の怒りを買って幕府の討伐を受けた前例がある。播磨に帰れば地の利は我が方にある。あの時のようにうまく持ちこたえられるであろう」
それでも、則繁は心配であった。
「しかし今回は応永の頃より立場が悪い」
「心配無用だ。挽回する策はある」
「どんな?」
「将軍はいなくなった。この戦、先に将軍を立てた方が勝ちだ」
「おお」
「おそらく幕府は足利義教の遺児・千也茶丸を次の将軍にすえてくる。我々はこんなお子様よりふさわしい大人の将軍を先に立ててしまう」
「そんなのどこにいるのさ?」
「備中にいる」
「備中……」
赤松義雅が思い出した。
「足利直冬(ただふゆ)の孫、足利冬氏……」
ちなみに直冬は、室町幕府初代将軍・足利尊氏の子である。嫡子ではなかったが長男であり、後に叔父・足利直義の養子になって実父と戦っていた(「足利氏系図」参照)。