2.錯 乱 | ||||||||||||||
歴史チップス>バックナンバー2023>令和五年9月号(通算263号)処理味 嘉吉の乱2.錯 乱
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赤松教康邸から逃げ帰った大名たちは混乱していた。
「いったい何が起こったんだ?」
自邸にたどり着いた後も、事態がよくつかめてなかった。
「将軍が殺されたのはわかる。下手人は赤松であろう。が、単独犯なのか複数犯なのかがわからない」
単独犯であれば、赤松を討伐すれば済むことである。
しかしもし複数犯であれば、赤松に手を出したら共犯に襲われる危険が出てくる。
「管領(細川持之)が共犯だったら大変なことだ」
赤松満祐と持之が親密なのは周知であった。
その持之は、すぐさま禁中に参内し、冷泉永基(れいぜいながもと)を通して足利義教が暗殺された旨を奏上した。
その後、義教の子・千也茶丸(せんやちゃまる。後の足利義勝)が養育されていた伊勢貞経の邸宅に入って諸大名の様子をうかがった。
「誰か赤松の共犯でもいるのではないか?」
貞経が吹き出した。
「あんたが一番疑われてますよ」
貞経はかつて政所執事を務めていたが、義教と折り合いが悪くてクビにされていた。
「何だって!?」
そこへ赤松満祐から使者が来た。
貞経はますます笑った。
「こりゃ、ますます疑われますよ」
使者が持之に言った。
「公方さまのお首をお返しします」
「……」
「お首は摂津中島の宗禅寺(すうぜんじ。大阪市東淀川区)にございます。わが主人らは播磨へ帰りますゆえ、寺まで取りに来てください」
「断る」
「はい〜?」
「将軍の首など持っていたら、暗殺の共犯を疑われてしまうではないか」
使者は笑った。
「あれ?管領さまって共犯じゃなかったでしたっけ?」
「よくしゃべる男だ」
かちゃっ。ちゃららーん、らららららーんらん。
持之は刀を抜いた。
「え、何それ!?」
「うるさいヤツを黙らせる装置だ」
「ひゃー!」
ぶーん!ざっくり!
ぶて、こんころこんころ。
「……」
使者は死者になった。
持之は貞経にも深紅の刀身を見せびらせして脅した。
「今見たことは誰にも内緒な」
「君ってそういう感じなんだ」