2.ええじゃないか | ||||||||||||||
歴史チップス>バックナンバー2023>令和五年10月号(通算264号)衆道味 遮那王2.ええじゃないか
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長寛三年・永万元年(1165)頃、私は七歳で洛北の鞍馬寺に預けられた。
迎えた和尚さん(覚日。または円忍・蓮忍・円乗)は喜んだ。
「なんとまあ、かわいい子じゃ!」
「常盤御前の子だそうですよ」
「常盤御前! ということは、そのダンナは先の戦で死んだあのイケメンか! 道理でかわいすぎると思ったわい!」
「預かってもらえますか?」
「預かるに決まっているではないか! こんなかわいい子、有り金全部はたいても買い取りたいわい!」
「はあ?」
和尚さんは私の頭をなでた。
「ぼうや、お名前はなんていうんだい?」
「牛若」
「ウシワカ? よくないねー、その名前は」
「なんで?」
「ウシなんてかわいくないわい」
「そんなことないよ。ウシさん、かわいいよ」
「わしは嫌いなの。何度も牛フン踏んでるから」
和尚さんは思いついた。
「よし、今日から君の名前は遮那王だ」
「しゃなおう〜?」
「君は俗世では厄介者だったそうじゃが、この寺では大丈夫じゃ。間違いなく君は人気者になる。これでもかこれでもかとみんなからかわいがってもらえる」
「そうなの?」
「そうじゃ。ただし、最初に味見するのは、和尚であるこのわしの特権じゃよ。ぐふふ!」
「?」
その日はお経などを勉強した。
夜は早く寝たが、夜半に変な音で目覚めた。
ぺろぺろぺろ。
「なに?」
ちゅぱちゅぱちゅぱちゅう。
「なになに?」
起き上がると、私の下半身を和尚がなめていた。
「やめてよ!」
私が逃げると、和尚さんはすっとぼけた。
「おお、起きたのかい。どうした?」
「どうしたって、和尚さんこそ何してたんだよ!」
「何もしてないよ」
「してた!絶対なんかヘンナコトしてた!」
「ヘンナコトなんてしてないよ〜。イイコトじゃよ〜」
「気持ち悪いなー」
「気持ち悪くなんてないよ〜。そのうち気持ちよくなるんじゃよ〜」
「もう寝るから帰ってよ!」
「そんなこと言わずに、もう少しなめさせてよ〜」
「嫌だって言ってるだろ!」
私が股を隠すと、和尚さんは逆ギレした。
「ええじゃないか! 減るもんじゃねーし!」
「こわいよー」
私がおびえると、和尚さんは声を和らげた。
「ごめんごめん〜。ちょっと我慢すれば、後でイイモノあげるからさあ〜」
「イイモノって?」
「ぼたもち」
「……」
私はゴクリとツバを飲み込んだ。
気づいた和尚さんが喜んだ。
「なあ、ぼたもち欲しかったら我慢しような。子供は大人の言うことを聞いていればいいんじゃよ」
私はぼたもち欲しさに我慢することにした。
悪夢が去ると、枕元にぼたもちが置いてあった。
私はぼたもちをむさぼり食べた。
『生きるためには何でもしたのよ』
お母さんの声がよみがえって泣けてきた。