6.ちゅきちゅきハリケーン | ||||||||||||||
歴史チップス>バックナンバー2023>令和五年10月号(通算264号)衆道味 6.ちゅきちゅきハリケーン
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私は考えた。
(どうすれば六波羅入道をやっつけられるだろうか?)
ヤツを鞍馬寺におびきよせられれば一番いいのであるが、どうもこいつはオンナ専門なのか、私のような美少年には興味なさそうだった。
(こちらから都に出向くしかないか)
しかし、一人でのテロは無理があった。
私の長兄(源義平)も単騎でヤツを暗殺しようとして失敗していた(「変異味」参照)。
(ヤツを守る侍はいっぱいいる。ヤツに立ち向かうには大勢の仲間が必要だ。それと自身が強くなることだ。仲間を集めるのにはカネがいるが、強くなるだけならカネなんかいらない)
私は強くなる手段を考えた。
そして、自分の特技を生かす方法を思いついた。
(私の特技は「剣」しかない。「剣」は磨けば磨くほど強くなるんだ。そうだ!今晩から都に出てオトコどもの「剣」を奪いに行こう。目標は千本だ。千本奪う頃には、私は相当強くなっているだろう)
こうして私は毎晩のように鞍馬山を下りて都に出向き、かわいい男の子やかっこいいオトコを求めて「狩り」をするようになった。
何日も不審者出没が続くと、京雀たちのうわさになった。
「また向こうの辻で男の子がイタズラされたそうな」
「一緒にいたお父さんまでついでにカマを掘られたそうな」
「それがなぜか女の子やお母さんには手を出さないそうな」
「ほ、ほんまもんや!」
「怖い怖い。気を付けなさいよ、男たち〜」
「姦魔(かんま)は横笛を吹きながら登場するというぞ」
「さぞ屈強な男なんだろうね」
「それがよう、細い男で女装しているそうな」
「背も低くて見た目は美少女にしか見えないそうよ」
「妖怪かい!」
「で、興味本位で近づいてきた男どもをパクリ!」
「アリジゴクか!」
「なるほど。そりゃあ男どもも餌食にされるて」
「で、どの辺に出るんだい?」
「五条橋(京都市下京区〜東山区)や五条天神、清水寺(きよみずでら。東山区)なんかでよく出るそうな」
うわさを聞いていた荒くれ者がいた。
名を武蔵坊弁慶といった。
「おもしろい!」
弁慶が長刀(なぎなた。薙刀)を振り回して叫んだ。
「この俺がけしからん姦魔を退治してくれよう!」
弁慶は五条天神で暗くなるのを待った。
ぴーひょろろー。
どこからともなく笛の音が聞こえてきた。
「そーら、おいでなすった」
弁慶は耳を澄ませた。
ぴーぷー。
鴨川の方から聞こえてくるようであった。
弁慶は五条橋に移動した。
そして、私と遭遇した。
私はその日の前のまでに九百九十九人の男の「剣」を握ってきた。
そうである。
その夜の弁慶が目標の千人目だったのだ。
(オトコだ)
私は感づいた。市女笠(いちめがさ)の下から男の様子をうかがった。
(いい男だ)
私は横笛を吹きながら、ゆっくりと近づいていった。
弁慶が行く手を遮るように橋の上で仁王立った。
私はぞわぞわっとした。
(わーい!千人目にふさわしい、ど真ん中のオトコ〜)
私の好みは二つあった。
抱きたい男と抱かれたい男だった。
もちろん弁慶は後者だ。
(すき!)
私はとろんとしてきた。
(ちゅき!ちゅき!)
彼を見つめているうちに、理性がぶっ飛んできた。
「女」
弁慶がむんずと私の肩をつかんだ。
私はひざまずいて笛を置いて懇願した。
「ごめんなさい!ごめんなさい!要件はわかっています。命以外は全部差し上げますので、こちらの河原の茂みへどうぞ」
弁慶は冷静だった。
「男じゃないか。声変わりしている。しかも抹香臭い。――ははあ、どこぞの寺の稚児だな?」
弁慶が長刀を立てて私の顔をのぞき込んだ。
「――しかも、この美形、相当な人気者だ」
弁慶はニヤリとした。
私はスキアリと見た。
ばっ!
むぎゅう〜〜〜。
「うっ!」
笑っていた弁慶の顔が突然硬直して赤くなった。
私は叫んだ。
「獲ったどー!千人目の『剣』、握ってやったどー!!」
ぐばあ!
私はつかんだ右手を天に突き上げた。
「痛い痛い!痛いって!そこ、あかんとこやて!」
弁慶は悶えた。転んだ。
バシ!
すねまで打った。いわゆる弁慶の泣き所だった。
「いてーて!痛すぎやて!そこもあかんとこや! あ、てめーいつまで、握っているんや! 放せー!」
「放さなーい」
「なんでやー!?」
「衆道鞍馬流奥義!ちゅきちゅき大嵐ー!」
ぐりん!ぐりん!ぐりん!
「やめろー! ちぎれるぅー! 何なんだその技はぁー!!」