7.俺たちに明日はある | ||||||||||||||
歴史チップス>バックナンバー2023>令和五年10月号(通算264号)衆道味 遮那王7.俺たちに明日はある
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私は寝物語で「千人握り」を始めた理由や自分の素性、生い立ちなどを話した。
「へー、源氏の若君さまね―」
「うん」
「で、今は鞍馬のお山一番の推しの子」
「うん」
「で、自分の正体を知り、カタキの六波羅入道を倒すために『千人握り』を始めた」
「うん」
弁慶は吹き出した。
「うふぷ! そんなことして本当にカタキを討てると思っているのか?」
「うん」
「違うだろー!カタキを取りたかったら、武芸や軍法を学べよー!」
「だよね〜」
「鞍馬寺にも書物はたくさんあるんだろ?」
「腐るほどある」
「それらを見て勉強すればいいんだよ」
「なるほど。考えもつかなかった」
「それからもう一つはカネだ」
「だね」
「兵や馬、武器や武具を集めるには大金がいる」
「でも、大金なんてそう簡単に稼げないよ」
「稼げないなら頂けばいいんだよ」
「いただく?」
「『頂き男子シャナちゃん』になって『おぢ』に貢いでもらえばいいんだよ」
「『おぢ』ってなに?」
「カネを貢いでくれるおじさまのことだよ」
「ふーん」
「鞍馬寺にも金持ちが来るだろ?」
「うん。金売吉次とか」
「ああ、三条に住んでる黄金を商っている大金持ちだな。そういう富豪にたかって銭カネを頂いて貯めればいいんだよ」
「たからなくてももらえるよ。でも、そういった銭カネは和尚さんに全部取り上げられちゃうから貯まらないんだよ」
「だろうな。それならこちらから出向くしかないな」
「出向く?」
「ああ、三条にある吉次の屋敷に行って直接頂けばいいんだよ。そうすれば、銭カネをもらったことを鞍馬の和尚に知られずにすむ」
「でも、自宅には奥さまがいらっしゃるかも知れないから、せびりづらいな〜」
「奥さまがいたら、別の場所で逢引すればいい」
「だよね〜」
私と弁慶は三条の吉次屋敷を訪ねた。
「こんにちは。吉次おじさまいる〜?」
「おお、シャナちゃん。いるぞい。相変わらずかわいいな〜」
「うふっ! ありがとうございます〜」
「ちょうどよかった。実はシャナちゃんにお願いしたいことがあった」
「奇遇ですね。私もおじさまにお願いしたいことがあって参りました〜」
「ふーん、どんなお願いだい? たいていのことは聞いてあげるよ」
どうやら奥さまは不在のようだった。
「それより、おじさまのお願いからお先にどうぞ」
「そうかい。奥州平泉(ひらいずみ。岩手県平泉町)にいる藤原秀衡(ふじわらのひでひら)さまって知ってるかい?」
「うん。鎮守府将軍に任じられた偉い人でしょ?」
「そうそう。その偉い人が、都で大人気な鞍馬の有名稚児シャナちゃんに一目逢いたいってお願いしてきたんだ。だから一度、わしが奥州に商いに行く時に、ついてきてくれないかい?」
「へー。その藤原秀衡さまも金持ちなの〜?」
「すごい大金持ちだよ」
「吉次おじさまより〜?」
「もちろんだ。わしの財産なんて比べものにならない。わしどころか、朝廷の全財産より多いかもしれないな」
「ようするに藤原秀衡さまって、日本一の大金持ちってこと?」
「そういっても過言ではないね」
私と弁慶はうれしそうに顔を待合わせた。
吉次は頼んだ。
「どうだい?わしは近々奥州に商談に行く。商談も有利になるだろうから、一緒についてきてくれないかい?」
「もちろんですとも!」
私は即答して付け足しました。
「一目逢うどころか、ずっとずっと奥州で暮らしてもいいですよっ」
「それはわしがちょっと寂しいな」
「でもでも、おじさまともまた奥州に来た時に逢えるじゃないですか〜」
吉次屋敷を後にした私と弁慶は空に向かって大笑いした。
「求めていた成果以上の成果だったね」
「まさか、金売吉次以上の『おぢ』を見つけられるとは思っていなかったぜ!」
「しかも藤原秀衡の財力は朝廷以上だとか」
「やったぜ! それほどの財力があれば、六波羅入道だって倒せるだろう!」
「六波羅入道! 首を洗って待ってろよ!」
「俺たちに明日はある!」
数日後、私は鞍馬寺を出奔し、吉次一行と奥州平泉へ向かった。
しかし、和尚さんは許さなかった。
「出奔なんて許さん!遮那王ほどの金づるは他にいないのじゃ! どんな手段を使ってでも連れ戻せっ!」
和尚さんは熊坂長範(くまさかちょうはん)なるアウトサイダーを雇って私を襲わせた。
が、熊坂は私自らの手で退治してやった。
「ぎゃーん!」
寝所に誘い込んで握りつぶしてやった。