8.パラダイス銀河

歴史チップス>バックナンバー2023>令和五年10月号(通算264号)衆道味 遮那王8.パラダイス銀河

ジャニー喜多川性加害
1.硝子の少年
2.ええじゃないか
3.青いイナズマ
4.仮面舞踏会
5.涙くん さよなら
6.ちゅきちゅきハリケーン
7.俺たちに明日はある
8.パラダイス銀河

 金売吉次一行と奥州平泉へ向かう途中、私は烏帽子親(えぼしおや)ナシで自ら元服して「源九郎義経」と名乗った。
 元服の地については鏡の宿
(かがみのしゅく。滋賀県竜王町)説と熱田神宮(あつたじんぐう。名古屋市熱田区)説がある。

 一行が三河の矢作郷(やはぎごう。愛知県岡崎市)に差し掛かった時、
 ぱららん、ぱららん、ぱらぱらりん。
 どこからともなく琴の音が聞こえてきた。
 ぴーひゃらー。
 私がとっさに横笛を取り出して応じてやると、
 ぱか!
 窓が開いて男の子が顔を出した。
(きゃわ!)
 私は一目ぼれしたが、
 ぱたん!
 男の子はすぐに窓を閉めてしまった。
(つまんね)
 馬を止めて立ち尽くしていた私に、
「どうしました?」
 吉次が聞いた。
 とっさに私は窓を指して、
「今晩はここに泊まりたいな」
 と、頼むと、吉次はあっさり承諾してくれた。
「ここは知り合いの矢作長者の屋敷です。奥州に行き来するときにいつも泊まっている定宿なんですよ」
「なーんだ。それはよかった」

 一行は矢作長者の屋敷に泊まることにした。
 夕食後、私は屋敷中をうろうろしてさっきの男の子を探した。
「どこにもいないな」
 そこで庭に出て横笛を吹いてみた。
 ぴーひゃらー。
 すると、
 ぱららんぱららん。
 どこからともなく琴の音が返ってきた。
「あっちだな」
 私は音のする殿に向かった。

 月明かりの下でさっきの男の子が琴を弾いていた。
(やっぱり、きゃわわ!)
 私は男の子に声をかけた。
「ぼっちゃん、夜中に楽器を弾いちゃだめだよ。夜中に楽器を弾くと、泥棒が来るっていうよ」
 私は殿に上がり込んで続けた。
「君はかわいいんだから、真っ先に泥棒の毒牙にかかっちゃうよ〜」
「こわい」
「大丈夫、私が守ってあげるから」
「うん」
「楽器はやめて静かに寝ようね」
「わかった」
「静かに私と一緒に寝ようね」
「え?」
「大丈夫。何もしないから」
「何もしないの?」
「うん。添い寝だけ」
「本当に何もしない?」
 男の子は着ていたものを脱ぎ始めた。
 想定外の対応に私は驚いた。
「な、なんだよそれ!?」
「本当に何もしないで耐えられる〜?」
 全部脱ぎかけた男の子の前に私は陥落した。
「耐えられるわけないじゃないかー!」
 ばっ!
 私は男の子を抱きしめた。まさぐった。
 すか!
 からぶった。
「あれ? あれれ! 『剣』がない!」
「ふふふ」
「『剣』はないけど、何かあるー!」
「何かしら?」
 私は気づいた。
「さてはおまえ、オンナだったのかー!」
「知らなかったの?」
「私をだましたのか―!?」
「あなたが勝手に勘違いしただけじゃない」
「えーっ!そういやそうじゃねーかー! で、君は一体誰なんだー!?」
「わらわは浄瑠璃姫。矢作長者の一人娘よ」
 室町時代以降に興隆する浄瑠璃の語源となった女性だ。
「ここのお嬢さまかい!」
「ええ」
「お金持ちなんだろうな」
「ええ、まあ」
「ふっ!」
「あなたがわらわをモノにすれば、わらわの父も『おぢ』になるわ」
「おぢ!なんでそんなこと知っているんだ?」
「さっき吉次さんが酔っ払ってベラベラ全部話してくれたわ」
「口が軽いヤツだなー!」
「怒らないの。夜が明けちゃうわ。あなたは今はわらわのことだけ考えなさいよ」
 私の両手が浄瑠璃姫に握られた。
 私は顔をそむけた。
「どうして私を見ないの?」
「だって、君はオンナだから。オンナは不浄で汚いから見ちゃいけない触っちゃいけないって和尚さんに言われきた」
「ふーん。わらわって、汚いんだ〜」
「でも、そんなことないんだよ。オンナなのにスゲー美しいんだよ。なんかいいにおいするし」
「わらわのこと、見たくもないし、触りたくもないんだ〜」
「違うって言ってるだろ! 見て―んだよ!触りて―んだよ!たまんねーんだよー!」
「わらわはいいって言ってるんだよ〜。正直になれば〜。あなたの『剣』みたいに〜」
 私は向き直って仰天した。
「うっわー! 何だこれは! わけわかんねー!なぜかなぜか私の『剣』が史上最強にビンビン物語なんですけど〜!!」
「それはね、初めてホンモノの女体と触れ合ったからよ」
「何だって!?」
「そう。あなたは長年和尚さんにだまされてきた。ニセモノを本物だと思い込まされてきた」
「何のために?」
「あなたを支配するために。和尚さんはあなたを独占したかったのよ。和尚さんは聖職者じゃないわ。我欲のためにあまたの少年たちの将来を握りつぶしてきた偽善者よ」
「そんなことねー!和尚さんを悪く言うなー!私の人生を否定するなー!」
「否定されるのが嫌なら、全部受け入れてあげる〜」
「ギャー!何だか知らないけど吸い込まれる―!ヒーッ!ありえねー!あはーん!」

 その夜、私はブラックホールの神秘を知った。
 1174年宇宙の旅、未知との遭遇だった。

 その年の三月、私は奥州平泉へたどり着いた。 

[2023年9月末日執筆]
参考文献はコチラ

※ 源義経の同母兄は今若丸と乙若丸ですが、どちらが義円なのか阿野全成なのかは史料によって異なります。
※ 鞍馬時代の義経の伝説には現実離れしたものが多いため、現実的に解釈したところ、コンナノになってしまいました。
※ 義経は鬼一法眼の娘に近づいて奥義書を手に入れたと伝わりますが、この物語では「息子」にしました。
※ 「千人斬り(この物語では千人握り)は弁慶が試みたという説が一般的ですが、義経がやっていたという史料もあります。

前へ歴史チップスホームページ次へ

inserted by FC2 system