5.涙くん さよなら | ||||||||||||||
歴史チップス>バックナンバー2023>令和五年10月号(通算264号)衆道味 遮那王5.涙くん さよなら
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「鞍馬寺に半端ねー超美少年な稚児がいるそうな」
「名前は遮那王」
「ある没落有名武将と千人の中で一番きれいだった美女との間の子だそうな」
「あ、おおかた正体わかった」
「内緒な」
都にうわさが広まると、貴人たちが続々と私を求めて忍んできた。
その中には、正体は明かさなかったが、遊び人な院(後白河法皇)もいた。
遊び人な院が寝物語で私に聞いた。
「左馬頭(さまのかみ。源義朝)の子だそうだな? 六波羅入道(ろくはらにゅうどう。平清盛)は当然だが、院とかも恨んでおるのか?」
「はい?」
私はそれまで、実のお父さんの正体を知らなかった。父のカタキについても「卑怯なヤツ」とだけしか知らされてなかった。
「何だ知らなかったのか」
「サマノスケって誰? その人が私の実のお父さんなんですね?」
「いや、何でもない」
遊び人の院は口をつぐんでしまった。
私は寺の書庫で調べた。
左馬頭や六波羅入道が誰なのかはすぐにわかった。
鎌田先輩の父親(鎌田正清)が実のお父さんと乳兄弟だったことも知った。
私は寝物語で鎌田先輩に聞いてみた。
「私の実のお父さんって、源左馬頭義朝だったんだってね?」
鎌田先輩は教えてくれた。
「ああ、君のお父さまは源氏の棟梁だったんだよ」
彼は戦に敗れたお父さんがどうなったのか、お兄さんたちがどうなったのか、私の知らないことも全部話してくれた。
私は悲しくなった。
「その、源氏の棟梁の御曹司が、今じゃこのザマだ。田舎寺の稚児として好色な男どもに春を売っている」
私は情けなくなって泣いた。
鎌田先輩が慰めた。
「こんなザマじゃない! 今では君は鞍馬のお山の大将だ! 都の貴人どももヒーヒー言わせられる、この日本で唯一無二の存在なんだ! 何も恥じることはないよ! そんな君に涙なんて似合わない! 君はこの寺のおもてなしの象徴なんだ! おもてなしに涙なんて必要ない! おもてなしに必要なのは笑顔なんだよ! 忘れるなよ! 君の笑顔はサイコーなんだ! 君が笑っていれば、俺は幸せなんだ! 俺や鞍馬の人々だけじゃない! 君は笑顔で天下万人を幸せにできるんだ! 涙なんて陰気臭いヤツはさよならしちゃいなよ!」
私は笑った。
「わかった。私はいつも笑っているようにするよ」
「そうだよ! それでいいんだよ!」
「でも、六波羅入道への憎しみは忘れない。私はいつかきっと、お父さんやお兄さんのカタキを取ってみたい!」
「ああ。その時は俺もお供するよっ」