6.こんな改革は嫌だ! | ||||||||||||||
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鳥居耀蔵が南町奉行になって以来、倹約令はますます厳しくなった。
「農民は商売をするな!」
「贅沢な住居も禁止だ!」
「大きな庭も造るな!」
「金銀の装飾品は身に付けるな!」
「初物は売買するな!」
「いやらしい本も禁止だ!」
「混浴もけしからん!」
「もぐりの売春も禁止だ!」
「中絶なんてもってのほかだ!」
「賭(か)け事もダメだ!」
「翻訳書の出版は町奉行の許可制にする!」
「歌舞伎や寄席も制限する!」
「役者絵や美人画もいかん!」
「花火は火事になるからするな!」
「将棋や碁は往来のじゃまになるから止めよ!」
「命令だ。もっと物価を下げろ! 下げろといったら下げろ!(物価引下げ令)」
「もはや江戸には仕事はない! 農民は田舎へ帰れ!(人返しの法)」
庶民は困った。
「あれもダメこれもダメって、おれたちいったい何すりゃいいんだ!」
「職人は物を作れ!
商人は商いに精を出せ! 農民は農村に帰れ!」
「作ったって売ったって、売れないんだよっ! 越前公の改革が始まって以来、不景気で仕事がないんだよ!
だから暇つぶしに遊んでいるんじゃないかっ!」
「遊ぶな! そんなに仕事がなければ、農民になって米を作ればいいだろう!」
人気歌舞伎役者・七代目市川団十郎のところにも鳥居の手の者はやって来た。
「市川団十郎だな?」
「そうですけど、何か?」
「贅沢のし過ぎで追放する! それにあんたが江戸からいなくなれば、みんなが歌舞伎を観なくなるからちょうどいい。今すぐ江戸から出てってもらおうか」
「何だそれ!!」
こうして市川は江戸から追放されてしまった。
合巻の巨匠・柳亭種彦の所にも鳥居の手は伸びた。
「あんたが柳亭か。今すぐ逮捕する!」
「え、何でですか?」
「あんたの本の装丁が華美すぎる。贅沢だ!」
「え!
そんな理由で!!」
柳亭は天保十三年(1842)七月、六十歳で病死してしまう。
人情本の大家・為永春水の宅にも役人はやって来た。
「あんたの書く本はスケベすぎるから逮捕する!」
「はぁ?
ぶーっ!
もっとすごいの書きたいのにぃー!」
為永も天保十四年(1843)十二月、失意のうちに病死してしまうのである。
当然、将軍の聖域・大奥にも目が付けられた。
「みんなが倹約しているのに、大奥だけ例外というわけにはいかない。もっともっと倹約していただきたい」
が、上臈(じょうろう。大奥の首魁)・姉小路局(あねがこうじのつぼね。橋本いよ)は突っぱねた。
「大奥は現実世界のものではありません。将軍の夢の世界なのです。改革は現実のものです。他人の、しかも将軍の夢の中まではどなたも介入できませんて。ホーッホッホッホ!」